映画  BUFFET FROID 『料理は冷たくして』
14/10/201514:14 Yusuke Kenmotsu


一体何人死ぬのだろうか
 
 Buffet-froid-Photo4.jpg
 
 1979年のベルトラン・ブリエ監督作品。彼は23歳の時に、11人の若い男女にインタビューし、それをコラージュして完成させたシネマ・ヴェリテという作風のドキュメンタリー『ヒットラーなんか知らないよ(1963)』でデビューを果たす。そしてブリエ監督といえばなんといっても『バルスーズ(1973)』である。ここで登場するのが2人の若き俳優ジェラール・ドパルデューとパトリック・ドベールだ。彼らは30年代40年代のスター、ジャン・ギャバンやジェラール・フィリップの誠実さや気品を備えているわけではなく、ヌーヴェルヴァーグ世代のジャン=ポール・ベルモンドやジャン=ピエール・レオーように監督の分身のような存在でもない。五月革命以後の青春像を体現するような彼らには、ある種の諦念や絶望感が背景にあり、それが無軌道さや暴力性に繋がっている。そこにドパルデューなら心優しさ、ドベールなら危うげな繊細さという個性が役柄にも加わるのである。

 『バルスーズ』は2人の若いエネルギーで強引に押し切ったような作品であった。そして本作『料理は冷たくして』にもジェラール・ドパルデューは主演で出ているのだけれど、その親の世代も巻き込んで、というより名優ベルナール・ブリエはベルトラン・ブリエ監督の実父なので、親も巻き込んだ作品ということで深みを増している。

 Buffet-froid-Photo6.jpg

 この映画のファーストシーンは全く人気のないラ・デファンス駅のホームで始まる。コンクリートの壁や線路によってシンメトリーになるように置かれたカメラが寒々しい空間を捉えていて、そこに赤い文字のクレジットが被さる。聞こえる音はエスカレーターが軋む微かな音のみで、これがまた不気味である。そこに登場するのがエスカレーターから降りてきたアルフォンス(ジェラール・ドパルデュー)という失業中の男で、ホームのベンチに座る初老の男(ミシェル・セロー)に背中合わせで座る。不安にかられた初老の男は「何のようだ」と怒鳴るのだけれど、アルフォンスは「あなたの耳を見ているだけです」と突拍子もない答えをした後、ナイフを取り出し「人を殺したくなる時はないか」と訊ねる。不気味に思った初老の男はちょうどやって来た列車に飛び乗って、去っていく。そこまでなら分かるのだが、駅に残されたアルフォンスが構内を歩いていると、先程列車に乗ったはずの初老の男が倒れている。しかもその腹にはアルフォンスのナイフが突き刺さっていて、2,3言葉を残した後、息絶えてしまうのだ。

 アルフォンスは自分のナイフが刺さっているので、自分が殺してしまったのかもしれないと思い、ナイフを抜いて持って帰る。妻(リリアン・ロヴェール)に相談しても信じてもらえない。マンションの上の階に新しい入居者が越してきたというので、アルフォンスは挨拶に行く。そこにいるのはモルヴァンディオ警部(ベルナール・ブリエ)で、アルフォンスが殺人について相談しても、今日は非番だからといって相手にしてくれない。

Buffet-froid-Photo2.jpg

 翌日アルフォンスの妻が失踪し、亡骸となって発見される。アルフォンスが家にいるとブザーが鳴り、出ると妻を殺したという殺人者(ジャン・カルメ)が立っていて、殺してしまった奥さんの部屋を見せて欲しいと言う。またブザーが鳴り、今度は警部が現れる。食事しながらアルフォンスと殺人者と警部が仲良く話していると、またブザーが鳴り、出るとアルフォンスのナイフさばきを見込んで殺人の依頼に男がやって来たのだった。こうしてさらに不条理に不条理を重ね、殺人に殺人を重ねていくので、観ている方も次第に慣れてきて、少しばかり奇妙な事が起こっても気にならなくなり、最終的にこの映画はどういったオチをつけて終わるのだろうという方に興味がシフトしていくだろう。そういう意味ではブリエ監督の常連女優キャロル・ブーケがきっちりとオチをつけるので心配ご無用だ。
 
 この映画には当時の社会の希薄な人間関係や孤独、人間性の喪失といった、真面目なテーマも見え隠れするのだけれど、不条理の世界にどっぷり浸かって楽しむべきだろう。「ブラームスは嫌いだ」と言って楽団を皆殺しにする警部は、10年後のブリエ監督作品『美しすぎて(1989)』のラストで「シューベルトは大嫌いだ」と言うジェラール・ドパルデューの姿を予告しているようで面白い。
 
 
BUFFET FROID 『料理は冷たくして』
放送時間
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ