映画  FRIC-FRAC 『彼女は泥棒』
08/09/201516:58 Yusuke Kenmotsu
『彼女は泥棒』
 
そして彼女は教育者
 

モーリス・レーマン監督による1939年の作品。冒頭のクレジットで技術協力として『赤と黒(1954)』などの監督のクロード・オータン=ララの名前が出てくる。モーリス・レーマンの監督作で本作以外でも2本程こういった形で、クロード・オータン=ララの名前を見つけることができる。多くの作品をプロデュースしているモーリス・レーマンが本作でもプロデューサー的な立場で、現場での監督は基本的にオータン=ララが行っていたと推測される。実際本作をオータン=ララの監督作品として掲載している資料もいくつかある。


Frci_frac_blo_picture1-(1).png


本作で注目すべきは、オープニング・クレジットで映画のタイトルよりも先に写真付きで紹介される3人の役者たちだろう。馬のような面長の喜劇俳優でドン・カミロシリーズが当たり役となったフェルナンデル、ジャン・ルノワール監督作品やジャン・ヴィゴ監督の『アタラント号(1934)』などで強烈な個性と演技力を見せてくれるミシェル・シモン、『ミモザ館(1935)』や『北ホテル(1938)』も素晴らしいけれど、なんといっても『天井桟敷の人々(1945)』のガランス役が忘れがたいアルレッティの3人である。彼ら3人の力強い個性が映画を牽引するので、シナリオが犯罪映画にしてはスリルに欠け、恋愛映画にしてはロマンスに乏しいからといって映画そのものの魅力が削がれるという事は決してない。彼らは少しばかりいい加減で場当たり的なストーリーの中に身を置いた時には、自由気ままに演技を楽しんでいるようで映画も弾けてくるのである。

 

Frci_frac_blo_picture2-(1).png


宝石店で働くマルセル(フェルナンデル)は競輪場でルル(アルレッティ)とジョー(ミシェル・シモン)に出会う。ここでマルセルは美しいルルに一目惚れしてしまうのだけれど、ルルとジョーは小悪党仲間で、実はルルには服役中のタンタンという恋人がいる。必死にアプローチするマルセル。しかしタンタンの保釈金が必要になったルルは、マルセルの職場を知り、彼の宝石店に強盗に入ることを思いつく。そしてマルセルから情報を集めながら実行に移すのだ。そういった中に、マルセルの事が好きな宝石店の社長令嬢レネ(エレーヌ・ロベール)がマルセルとルルの間に入る事で恋の鞘当ても同時に展開されるといった物語である。30年代のフランス映画はペシミスティックなものが多い印象があるが、本作は快活なハリウッドコメディを観ているような爽快感が得られるだろう。
役柄でも仲間同士のルルとジョーを演じるアルレッティとミシェル・シモンは、本作の元ネタである舞台版『Fric-Frac』でも同じ役を演じているので息がぴったりで、映画から参加のフェルナンデルとの、いい意味での距離感が生じている。
 
映画の中で登場人物が誰かに何かを教育するというシーンがあるだけで、その映画の出来不出来やその教育内容にかかわらず、そのシーンに惜しみない拍手を贈りたくなってしまうものである。教師や親が子供に何かを教えるという場合は勿論だが、西部劇での銃の訓練やロベール・ブレッソン監督の『スリ(1960)』でのスリの手さばきの特訓であっても、映画内で教育の名のもとに行われる全ての行為は、教えるものと教えられるものの間に豊かな時間とエモーションを生み出すことになる。そして本作では教育者の役割をアルレッティ演じるルルが一手に担っている。


Fric_frac_blog_picture3-(1).png


犯罪の世界に身を置く彼女は、マルセルが普段使わないような業界用語的スラングを連発する。会話の中でマルセルは次第にスラングを学んでいき、後日得意気に宝石店の同僚にスラングを使ってみせ、きょとんとされてしまうのだ。そもそもこの映画ではマルセルとルルの出会いの瞬間から、教育は始まる。競輪のレースを観戦しながらジョーがピーッと口笛を吹く。「僕は吹けない」などと呟くマルセルに対して、「こうするのよ」とルルが手本を示すのだ。また、マルセル、ルル、ジョー、ルネの4人でサイクリングに行った際、野原で休憩していると、ルルは草を一本抜いて、マルセルに「草ゲームをしよう」と差し出す。この草ゲームとは一本の草の端と端を2人で噛み、合図で中央に向かって噛み進めていくという、今日の宴会ゲームであるポッキーゲームの原型のようなもので、この淫靡なゲームを教えられたマルセルは骨抜きになってしまうのである。


終盤ルルはマルセルとルネに対して銃口を向けることになるのだけれど、教育者ルルならではの幕切れが用意されている。
フェルナンデルとミシェル・シモンの強烈で夢に出てきそうな顔面のカットが一つの画面に収まるところが観られるのも、この映画の特筆すべき魅力の一つである。
 
 
再放送:9月 8日(火)19:15~
9月13日(日) 2:00~
9月14日(月)21:00~
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ