映画  EN VILLE 『パリの恋人』
25/09/201517:56 Yusuke Kenmotsu

物静かな愛の闘争
 
2011年の作品で、ヴァレリー・ムレジャンとヴェルトラン・シェイファーという2人が共同で監督している。2人ともドキュメンタリーや短編映画の経験はあるものの、本作が長編劇映画第一作である。
主演のローラ・クレトンは本作と同じ2011年製作で日本でも一般公開された、ミア・ハンセン=ラヴ監督作品『グッバイ・ファーストラブ』でも主人公を演じていた。この時期彼女は初恋に身を焦がす思春期の少女の瑞々しさと危うさを見事に体現していた。その後クレール・ドゥニ監督やオリヴィエ・アサイヤス監督など、一流監督と仕事をするようになる彼女は、今後最も注目すべき女優の一人だろう。

本作で40代でありながら16歳の少女に想いを寄せるカメラマンを演じるのは、スタニスラス・メラール。親子ほどの年齢差でありながら、さほど違和感なく観られるのは彼の大人の魅力によるところが大きい。
 
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思春期を田舎町で過ごす16歳のイリス(ローラ・クレトン)はパリへの憧れを抱いていた。そんな時に彼女はパリからやってきたカメラマンのジャン(スタニスラス・メラール)と出会う。ジャンは車の中から道を訊ね、イリスはその車に乗って案内するという出会いは彼女の無防備な危うさがよく出ている。そもそも彼女の無防備さはそこに始まったわけではない。学校の同級生で彼女に惚れている男子の愛の告白に対し、「付き合わないけど、家に泊まらせて」と言い放ち、同じ部屋で眠るのだ。ここに恐らく体の関係はなく、今風の言葉で言えば「添い寝フレンド」という珍妙な関係の男子がいて、もう一方でパリから来たカメラマンがいるのだ。それに対し、このカメラマンのジャンには10年連れ添った妻(ヴァレリー・ドンゼッリ)がいる。

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こうした各々もつれた関係がありながら、本作では会話の量の割に感情を表に出すケースが極端に少ない。上映時間も70分そこそこなので、ぼうっと観ていると淡々と話が進み、いつの間にか終わっているということになるかもしれない。『グッバイ・ファーストラブ』では「別れたら死ぬ」などという台詞で、感情的な面を見せていたローラ・クレトンも本作ではそういった場面はほとんどない。登場人物全員が大きく笑ったり怒ったりすることはなく、ちょっとした行動や表情の変化で内面を読み取る必要があるのだろう。

風景写真しか撮らないはずのジャンがイリスにカメラを向け、シャッターを切ったその瞬間に何かが生まれる。イリスは抗うことなく無表情でただそこに立っている事で雄弁に返事をしているようだ。その時の写真が入っていると思われる数枚の束を妻はパラパラとめくっている。彼女は妻でありジャンの助手でもあるので、ジャンが普段どういった写真を撮るのか誰よりもよく知っている。そして彼女は静かに「女の子ね、私への当てつけかしら」と不満を口にする。


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これが映像としては、カメラを向ける男、立っている少女、写真を眺める女という具合に淡々と無機質にモンタージュされている。だから全員が無感情に見えて、この作品を愛の不毛を描いた作品だと捉える人もいるだろう。

しかし言葉や仕草や行動の奥に、彼らなりの愛憎が渦巻いているのが発見できると、本作はより楽しめるはずである。特にスタニスラス・メラールとヴァレリー・ドンゼッリの演技巧者の2人による静かで激しい戦いは必見だ。
 

EN VILLE パリの恋人
再放送:9月27日(日)21:15
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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