映画  LES INVASIONS BARBARES『みなさん、さようなら』
26/05/201516:06 Yusuke Kenmotsu
蛮族の侵入とは?
 
カナダのドゥニ・アルカン監督の2003年の作品。本作はカンヌ映画祭で女優賞(マリ=ジョゼ・クローズ)と脚本賞を、米国アカデミー賞では外国語映画賞を獲得するなど、世界中で絶賛された作品である。

ドゥニ・アルカン監督の『アメリカ帝国の逆襲(1986)』という作品の続編的な位置づけの映画で、同じキャストが同じ役名で登場する。『アメリカ帝国の逆襲』では、ケベック大学の歴史学科の学部長ドミニク(ドミニク・ミシェル)を中心に、映画の大部分で男女数人ずつの登場人物たちがお互いの性生活をあれこれ話し合うという作品で、意図を掴みづらい内容であった。しかし登場人物の年齢やケベックという特殊な土地を考慮すると、1950年代から60年代に彼らインテリ青年たちが信条としていたもの(カトリック教会やマルクス・レーニン主義)が80年代に崩壊し、新しい価値観や文化としての、性の解放や自由恋愛が生まれたということがベースにあるのだろう。

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『みなさん、さようなら』では前作の登場人物の一人レミ(レミー・ジラール)が末期癌に侵されてしまったところから話が始まる。本作ではこのレミが最期を迎えるまでの家族や友人との交流が描かれていて、老いや死、家族という普遍的なテーマが扱われているので、前作より観やすい作品になっている。

父レミの病気のことを母ルイーズ(ドロテ・ベリマン)から聞いた息子セバスチャン(ステファン・ルソー)は、ロンドンからモントリオールに帰ってくる。彼はロンドンの証券取引所で働くやり手のビジネスマンだ。コミュニストかぶれで、家庭を顧みないほどの激しい女好きの父と、父を反面教師のようにして育った資本主義の申し子のようなビジネスマンの息子は、顔を合わせればケンカばかりしている。しかし精密検査の結果、病気が手の施しようのないほど進行していると知り、母からの頼みもあってセバスチャンは、仲間たちに囲まれて楽しく過ごしながら父を逝かせてやろうと決意する。

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セバスチャンは父の友人たちを呼び寄せると、前作で登場した面々が勢ぞろいする。持ち前の財力で、病院の理事長には現金をチラつかせて、使っていない階に豪華な個室を作り上げる。大学教授をしていたレミを心配して見舞いに駆け付けたと思われた大学生3人組も、裏でセバスチャンがお金を渡して来てもらったサクラであった。セバスチャンは父の恐怖や痛みを和らげるため、モルヒネより効果が高いと言われるヘロインを入手しようと画策する。薬物への最短ルートは警察の麻薬科とばかりに、警察に向かう彼の思考回路は単純にして経済的だ。結局セバスチャンは、父の元愛人の娘で薬物中毒者のナタリー(マリ=ジョゼ・クローズ)に会い、彼女に報酬を払って父へのヘロイン投与の世話係になってもらう。このナタリーという登場人物の存在、もちろんマリ=ジョゼ・クローズの芝居の質もあるのだけれど、この人物がいることによって、従来の難病映画とは一線を画する、犯罪の香りが漂ってくるのだ。妻のいるセバスチャンとの関係を含めて、この映画では予定調和を打破する役割を彼女が担っている。
 
そうは言ってもレミは最終的に湖の見える別荘で、家族や友人に見守られながらヘロイン注射による安楽死を選択する。レミは一通り別れを済ませ、ヨットで航海中の娘からのビデオレターも見て、ずっと水と油の関係だった息子に「お前のような息子を作れ」というセバスチャンへの理解や尊敬や愛が詰まった短い言葉を残して、旅立っていくのだ。

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最高に美しくて感動的な予定調和で締めくくられる本作はタイトルの『みなさん、さようなら』がぴったりに思えるのだけれど、原題は「蛮族(野蛮人)の侵入」である。では本作において何が蛮族なのだろうか。真っ先に思い浮かぶのはレミの体を蝕む癌だろう。あるいはヘロイン(薬物)とも考えられるし、レミの台詞に「息子は蛮族の王子」というのがあるので資本主義でもあるだろう。テレビを見るシーンでは9.11アメリカ同時多発テロが映される場面もあるので様々なことが考えられる。何が蛮族かを頭の片隅に置いて鑑賞すると、この映画はより楽しめるだろう。
 

映画LES INVASIONS BARBARESみなさん、さようなら

放送日:5月26日(火)19:15
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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