映画  GARE DU NORD 『北駅』
16/02/201511:10 Yusuke Kenmotsu
TV5MONDE2月放送映画『北駅』
 
パリ北駅に集う人々

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女性監督クレール・シモンによる2013年の作品。彼女は数多くのドキュメンタリー作品を手掛けてきた、現代のフランス映画界を代表するドキュメンタリー監督である。そのドキュメンタリー作家の監督がフィクションとして撮ったのが『北駅』である。以前日本でも映画祭で紹介された『神様のオフィス(2008)』という作品があるので、彼女がフィクションを監督するのは『北駅』が初めてではない。

『神様のオフィス』は悩みを抱えた少女や娼婦などが家族計画センターにやってきてカウンセラーに相談するという物語で、監督が実際に相談に来る人たちの話を記録して、その話を基に脚本として再構築して映画化したものである。カウンセラー役にはナタリー・バイ、ニコル・ガルシア、ベアトリス・ダル、イザベル・カレという超一流の女優を起用し、相談に来る人たちは素人俳優という面白い仕掛けの映画であった。
 
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『北駅』も『神様のオフィス』と同様のアプローチで作られているので、核となる登場人物は実力派の役者たちが演じて物語を活性化させながら、脇役に素人俳優を使ったり、映画とは無関係な実際の通行人を多く映したりすることで現実の生々しさを映画に定着させている。

パリの北駅といえば、ロンドンへと続くユーロスター、オランダやベルギーへのタリス、国内にはTGV、もちろん地下にはメトロが通っているのでヨーロッパの鉄道駅の中で最大の利用者数を誇る巨大駅だ。駅舎のファサードも立派で23体の大きな女神像が本作でも何度か映される。この駅は映画『アメリ(2001)』にも登場したので印象に残っている人が多いかもしれない。本作はこの北駅が背景ではなく前景として主人公のような存在感を放っている作品である。

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社会学を学ぶ青年イスマエル(レダ・カテブ)は北駅を利用する人々についての博士論文を執筆するために、列車の利用者や駅で働く人たちにアンケートを取っていた。彼はそんななかマチルド(二コラ・ガルシア)という女性と出合うのだけれど、彼女は死に至るような重い病気を患っていた。本作はこの年の離れた2人の男女の淡い関係を中心に、家出娘を懸命に探すサシャ(フランソワ・ダミアン)という男性や、不規則な不動産業の仕事で家のあるリールとパリの間を慌ただしく行き来するジョアン(モニカ・ショクリ)という女性が物語に絡んでくるという群像劇である。そしてそれがほぼ全編、実際の駅の構内でロケーション撮影されている。

駅の中で生起する様々な出来事(女性用洋服店で大暴れする男、警察によるイスマエルの身体検査、線路をふさぐデモ行進とそれに伴う列車の遅延等々)を手持ちカメラで撮影していて、その映像は生々しく臨場感たっぷりで、さすがドキュメンタリー作家と感心させられる。それと同時に心地よい演出の介入も発見できるだろう。例えば手持ちカメラでイスマエルを捉えていて、画面のフレームの左へとイスマエルが外れていくと、それとほぼ同時にサシャがフレームに入って来て、カメラはカットを割ることなくイスマエルに別れを告げてサシャに付いていき、そこからサシャ中心のシーンになるというような場面がしばしば見られる。ほとんど無関係と思えるような人たちが実は繋がっていると感じさせるような撮影による演出で、それが群像劇として巧く機能しているのだ。

本作では群像劇映画によく見られるような、一つの絶対的な結末に収斂するといったあざとさはほとんどない。だからといってバラバラな人物たちがバラバラのままというわけでもなく、あざとさと巧みさの分水嶺の、かなり絶妙なポイントを落としどころとしている。
 
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『北駅』はドキュメンタリー作家の作品らしく、様々な人が行き交う「駅」というものを見つめることによって不法移民や難民、ホームレス、薬物汚染、民族、宗教といった現代社会の抱える問題を浮き彫りしつつ、男女、親子、ペット(犬)への愛を描いてみせ、なおかつ鉄道マニア垂涎の駅映画にもなっているといういろんな楽しみ方のできる映画である。
 
再放送:2月20日(金)23h00

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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