映画  TU SERAS MON FILS 『もしも息子を選べたら・・・』
28/01/201510:18 Yusuke Kenmotsu
ボルドーワインと跡継ぎ問題

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2011年のジル・ルグラン監督作品。彼の作品は日本ではあまり観る機会がなく、『アルプスの少年 僕の願い事(2004)』が劇場未公開でDVD化された程度で、本作も劇場未公開作品である。彼の場合プロデューサーとして多くの作品を手掛けていて、近年ではジャン=ピエール・ジュネ監督の『ミックマック(2009)』や『天才スピヴェット(2011)』等がある。

主演のポールを演じるニエル・アレストリュプは『預言者(2009)』での刑務所内の囚人の王様のような役が印象的な名優で、本作と同年の2011年にはスティーヴン・スピルバーグ監督作『戦火の馬』にも出演している。

ポールの一人息子で少々出来の悪いマルタンという青年を演じるのはロラン・ドゥッチ。卑屈で出来が悪くて、それでも父に認めてもらいたいという屈折した人物を好演している。
 
ボルドーワインの世界を映画化した本作の舞台は上質なワインの産地としてお馴染みのサンテミリオン。撮影に実在するシャトーが使われているのでワイン愛好家には垂涎ものだろう。カーヴ(地下貯蔵庫)や緑が美しい広大なブドウ畑、工場の様子やテイスティングなどシャトーのツアーのような蠱惑的な場面を数多く味わうことができるのだ。

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冒頭荘厳な音楽の中、火葬場で真紅の棺が炎の中に入れられるところから映画は始まる。このシーンは時系列でいうと終盤にあたるので、ある人物の死はあらかじめ宣告されたことになる。

シャトーの運営はファミリービジネスとして一族で営むというケースが多いようで、本作のポール(ニエル・アレストリュプ)も代々続くシャトーを切り盛りしている。彼は本来なら跡継ぎと考えられる一人息子マルタン(ロラン・ドゥッチ)を全く信頼しておらず、むしろ嫌悪感を抱いているような接し方をしている。記者が取材に来た際など、親子での写真を求められてもポールは「宣伝写真は撮らない」と2人での写真を断りながら、マルタンのいない外に出て1人の写真を撮らせている。

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跡継ぎに不安を抱えている中でポールはカリフォルニアから帰ってきた若いフィリップ(ニコラ・ブリデ)という青年と再会する。フィリップはブドウ畑の管理人フランソワ(パトリック・シェネ)の息子で、カリフォルニアでワインの生産の仕事をしていたのだけれど、父フランソワが癌で余命6ヶ月と聞いてサンテミリオンに戻ってきたのだ。フィリップのワイン造りの経験や才能に惚れこんだポールは息子への無関心を一層強め、跡継ぎにするためにじりじりとフィリップへと近づいていく。さすがにマルタンの存在が気になりフィリップに断られるのだが、ポールは最後の手段としてフィリップを養子にして正式に跡継ぎにしようと画策する。これはマルタンの事どころかフィリップの両親の事も気にしないエゴイスティックなポールの悪魔ぶりが炸裂する場面だ。ニエル・アレストリュプはこの悪魔をオーバーにではなく、じわじわと滲み出るような恐ろしさで演じている。


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ある日地下のカーヴにやって来た息子フィリップは、そこにいた余命いくばくもない父フランソワに何をしているのか問うと、「(死後埋葬される)練習をしている」と全く笑えないジョークで返す。この癌患者こそ終盤、あまりにも増大した悪魔を退治すべく最後の一手に出る勇者なのだ。カーヴでの文字通り息の詰まるようなクライマックスは必見だ。
 
フィリップはカリフォルニアで「コッポラのところにいた」という台詞が出てくるのだが、このコッポラとは映画監督で『ゴッドファーザー(1972)』や『地獄の黙示録(1979)』などのフランシス・フォード・コッポラのことである。この名前を出したのは、単純にコッポラがカリフォルニアでワインビジネスをしているからというより、『ゴッドファーザー』に代表されるような血縁や跡継ぎをテーマにした彼の作品、あるいは映画をファミリービジネスとしているコッポラ一族と本作のテーマが合致しているからこそ、あえてこの名前を出したのだろう。映画好きには決して無視できない名前である。
 
再放送:1月30日(金)23:00

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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