映画  TOUT FEU TOUT FLAMME『炎のごとく』
23/01/201514:25 Yusuke Kenmotsu
魅力的な大真面目アジャーニ
 
1982年のジャン=ポール・ラプノー監督作品。彼はルイ・マル監督の『地下鉄のザジ(1960)』で脚本に名を連ねるなど、ヌーヴェルヴァーグの頃からキャリアをスタートさせて、2015年には新作の監督作品が公開予定という現役のベテラン映画人である。このラプノー監督作品の中では例外的に日本未公開なのが本作『炎のごとく』だ。だからといって本作が他の作品よりも明らかに劣っているかというと、そうではない。ミニシアターブーム全盛の時代にあって、フランス映画にしては軽妙すぎるということで興行的価値を疑問視されたのだろう。しかし当時26歳のあまりに可憐なイザベル・アジャーニが大真面目でヒステリックな娘を演じ、飄々としたダメ親父のイヴ・モンタンと絶妙なコンビネーションで魅せる本作を無視するべきではない。


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財務大臣の右腕として国際会議に出席するなどバリバリ仕事をする才女ポーリーヌ(イザベル・アジャーニ)は、家では他界した母、行方不明の父に代わって2人の妹たちや同居する祖母の面倒を見ている。妹たちに恋人ができれば小言を言い、体調が悪ければ世話をする母親のような存在だ。

ある日国際会議から夜中帰宅したポーリーヌは、大音量の音楽が外まで響いているのに驚く。そしておずおずとドアを開け中に入っていくと、カメラは驚きの表情のポーリーヌを捉えると共に陽気な歌声が聞こえてくる。そしてカメラはポーリーヌの視線
となって、部屋の中を映す。すると妹たちと一緒に歌っている父ヴィクトール(イヴ・モンタン)が現れるのだ。イヴ・モンタンといえば『恐怖の報酬(1953)』や『Z(1969)』など数々の代表作がある名優なのだが、「枯葉」が世界的にヒットしたシャンソン歌手でもある。その彼の初登場シーンが身体を見せるよりも先に歌声を聴かせるというのはちょっとした遊び心だろう。父の帰還に大喜びの妹たちは一緒に歌い踊っているが、ポーリーヌは突然の事に目を丸くして驚いている。本作ではヴィクトールののほほんとしたいい加減さとポーリーヌの神経質な大真面目さの対比が観客の笑いを誘発するだろう。

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要人の集まるパーティーの場面では、中国人たちにクレームをつけられポーリーヌたちが困っていると、どこからかひょっこり現れたヴィクトールが中国側の通訳のミスを指摘し、流暢な中国語で話をまとめるのだ。そして笑い話と大きな身振りで場を和ませるのだけれど、当然ポーリーヌは驚いて目を丸くするのみである。

ヴィクトールは以前カジノ建設を目論み、それが頓挫
して親戚など出資者を破産させた過去がある。その彼が委任状を持って新居を買いに出かけたと祖母から電話を受けるポーリーヌ。神経質なポーリーヌは興奮して国際会議場に響き渡るほどの大声で電話してしまうのだ。
 
ポーリーヌはヴィクトールが以前カジノを建設
しようとしていたスイスに程近い場所に向かう。ポーリーヌの恋人で記者のアントワーヌ(アラン・スーション)の運転でヴィクトールの行方を追っていたのだが、恋人ですら嫌気がさすほどのポーリーヌの神経質ぶりで、アントワーヌは車をポーリーヌに託して一人で帰ってしまう。なんとか場所を突き止めたポーリーヌは、父の共同出資者であるラウルという男に案内されて屋敷に向かうと、父は愛人ジェーン(ローレン・ハットン)と一緒にいた。またもや驚きで目を丸くするポーリーヌとヴィクトールとの間の溝は広がるばかりだ。

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ヴィクトールが建てるカジノを、密輸などの隠れ蓑にしようと企てるナッシュという悪人が手下を従えてクルーザーでやって来て、ヴィクトールとポーリーヌは拉致されてしまう。車で森の中を移動中、ポーリーヌは気分を悪くしたふりをして、車から降ろしてもらい、木陰で吐くまねをしながら近くにあった木材を手に取る。様子を見に来たナッシュの手下を木材で殴ったポーリーヌは、それをすぐにヴィクトールに投げ渡す。受けた彼も近くにいたもう一人の手下を殴り倒し、2人で森を駆けていく。米国西部劇映画のハワード・ホークス監督作品で何度となく見られる、丸腰で危機のジョン・ウェインに向かって、ウォルター・ブレナンがナイフやライフルを投げ渡す場面のような清々しいアクションシーンだ。

追っ手から逃れる中、都合よく小屋に立てかけられた2台の自転車を見つけたヴィクトールは、これに乗ろうと提案する。この自転車で激しく茂みに突っ込むポーリーヌのシーンはコメディ調ではありながら、ヴィクトールは長きに渡る自らの不在を悔いるような寂しい表情を一瞬見せる。そして彼らは仲良く2人乗りして森を抜けていくのだ。
 
どうにかこうにか悪人を退け、カジノを完成させたヴィクトールはパーティー開く。そこに警察がやって来て過去の件で取り調べを受けるためにバハマに連れて行かれてしまう。しかし父娘の和解の大冒険を見守っていた我々は彼が必ず帰ってくると確信して映画を観終えることができるだろう。
 
再放送:1月24日(土)23:00、26日(月)21:00

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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