映画  NUIT BLANCHE 『スリープレス・ナイト』
18/11/201410:30 Yusuke Kenmotsu
TV5MONDE 11月放送映画『スリープレス・ナイト』
 
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眠気もブッ飛ばすフレンチノワールの秀作
 
 本作は2011年のフレデリック・ジャルダン監督の作品で彼の第4作目である。彼の父親は『墓場なき野郎ども(1960)』や『ボルサリーノ2(1974)』等の脚本家パスカル・ジャルダンということで、父親の影響もあるのか本作はフィルム・ノワール風の作品に仕上がっている。

 『スリープレス・ナイト』はビッグバジェットとは言えないようなフランス映画でありながら米国人のトム・スターンが撮影を担当しているのが特徴的だ。トム・スターンと言えばクリント・イーストウッド監督とのコンビが有名で『ブラッド・ワーク(2002)』以降、日本公開最新作『ジャージー・ボーイズ(2014)』や次回作『アメリカン・スナイパー(2014)』に至るまですべての作品でカメラを回している。
 
 冒頭のキャストやスタッフのクレジットの出し方から捻りが効いている。最初は真っ暗だった画面にいつの間にか疾走する車が俯瞰で映されており、そこを上から下へと降りてくるように文字が流れていく。米国のフィルム・ノワールのカルト作ロバート・アルドリッチ監督の『キッスで殺せ(1955)』のようなクレジットの出し方は、本作で脚本に参加している二コラ・サーダの意向によるものだろう。彼はカイエ・デュ・シネマの批評家出身でフィルム・ノワールに造詣が深く、物語の雰囲気にマッチしたクレジットを提案したと推測できる。

 冒頭に映った車に乗っているのは本作の主人公で刑事のヴァンサン(トメル・シスレー)と同僚マニュエル(ロラン・ストーケル)だ。彼らはある車を追っているのだが、追跡中に目出し帽を被り、銃を用意する。猛スピードで先回りした彼らは、相手の車のタイヤをショットガンで撃ち、足止めする。そして目的であった黒いバッグは手に入れるのだけれど、ヴァンサンはこの時ナイフでお腹を刺されてしまう。このヴァンサンの傷が後半のアクションや物語に影響を及ぼしてくるのだ。本作がしばしば『ダイ・ハード(1988)』と比較されるのは、恐らく限られた空間の中で、一人の男が大勢の敵に立ち向かっていくという構造についてなのだろう。しかし飛行機嫌いのマクレーン(ブルース・ウィリス)が隣の男から「素足になって絨毯の上を歩くと楽になる」と聞かされ、素直に裸足になり、後々ガラスの破片の上を素足で戦うアクションシーンに繋がるという語りの経済性のようものが見事に受け継がれている。
 
 冒頭でヴァンサンが奪った黒いバッグの中身はコカインであり、奪われた男達はギャングで一人は撃たれて死に、もう一人は逃走した。ヴァンサンは逃げた男に正体を見破られたために、別れた妻との間の息子を誘拐され、ギャングのボスのマルシアーノから「息子を返して欲しければブツを持ってこい」と要求される。そこで息子を救うべくヴァンサンはマルシアーノが経営するナイトクラブへ向かうのだ。

 しかしこのヴァンサンという男は完全無欠の正義のヒーローというタイプではない。元妻のお腹大きくなっているのを見た時の微妙な表情や、息子とのかみ合わない会話シーンを序盤に見ている観客はこの頼りないヒーローを、固唾を呑んで応援せずにはいられない。

 本作の特徴はこのヴァンサン対悪者という単純な構図ではなく、ヴァンサンの行動を怪しんで彼を尾行していた女性警官ビネル(リジー・ブロシュレ)が絡んでくることで、三つ巴の予測不可能な展開が繰り広げられるという事だろう。

 ギャングとの取引の前に、バッグからコカインを一袋だけ取り出し、それを持ってマルシアーノの所へ向かうヴァンサン。残ったバッグはトイレの個室の天井裏に隠すのだが、後をつけていたビネルに発見され別の場所に移されてしまう。そうとは知らず息子とバッグを交換するために再びトイレに戻ってきたヴァンサンはあるはずの場所にバッグがないので大慌て。どこを探しても見つけられず、途方に暮れたヴァンサンは破れかぶれなほどの大胆な行動に出る。ずかずかと警察バッヂを見せながら厨房に入っていき、フランス語もままならない外国人従業員を2人奥まで呼び寄せる。そして3人でビニール袋に小麦粉を詰めてガムテープで包むという作業を繰り返す。ギャングのボスに対して、自分の息子の身柄と小麦粉を交換しようというのだから追いつめられた男の行動は恐ろしいというより他はない。しかし残り僅かの冷静さでバッグのジッパー部分に細工をしておいて開けるまでに時間がかかるようにすることは忘れてはいない。

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 この厨房はこれだけではなく、後にヴァンサンを追うビネルを逆に返り討ちにし、拷問まがいの暴力をふるう場所となり、ヴァンサンと悪の黒幕との大乱闘の舞台ともなるので名場面の宝庫である。そしてその度に小麦粉を詰めさせられた外国人従業員が苦々しい顔をするのは言うまでもない。

 厨房以外でも本作ではこの建物内のトイレ、階段、バー、ギャングの隠れ家など様々な場所が巧く使われていて、ダンスフロアも例外ではない。人がごった返すダンスフロアでは少し先でも見渡すのが難しく、目的の方向に移動するのも困難である。なんとか息子と巡り合い建物から脱出しようとする際、逸れてはならぬとヴァンサン持ち前の不器用な律義さで、自分と息子を手錠でつなぎ、人が密集するダンスフロアを掻き分けながら突き進んでいくのだ。
 
 本作は最初から最後まで変化に富んだプロットとアクションの釣瓶打ちで息つく暇もない映画として印象に残るが、親子関係のドラマとしてもなかなか秀逸だと言える。映画自体は結末がどうなるか分からない所で幕を閉じるのだけれど、もし仮にヴァンサンが目を覚ますことがあるなら、手錠などなくても息子と寄り添うことができるようになるだろう。
 
 
再放送:11月21日(金)夜11:00
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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