映画  PEARL 『パール』
06/05/202012:05 Yusuke Kenmotsu
筋肉と母性
 
2018年のエルサ・アミル監督作品。彼女は映画学校などには通わず、数多くの現場で助監督を経験して映画作りを学んできた人だ。助監督を務めた作品は優に30を超え、その中にはウジェーヌ・グリーン監督『ポンデザール(2004)』やベルトラン・ボネロ監督『メゾン ある娼館の記憶(2011)』『サンローラン(2014)』など一風変わった芸術派監督や、マチュー・アマルリック監督『さすらいの女神たち(2010)』やノエミ・ルヴォヴスキー監督『カミーユ、恋はふたたび(2012)』『マチルド、翼を広げ(2017)』といった役者出身監督の作品まで幅広い作品や演出スタイルを間近で見てきている。そんな彼女の長編初監督作品が本作『パール』である。

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本作は女性のボディビルダーを主人公にした作品だ。レア・パール(ジュリア・フォリ)はヘブンコンテストというボディビル選手権を目前に控えていた。冒頭の彼女のトレーニングシーンでは汗のにじむ筋肉を吐息や鼓動が聞こえるほど近くで接写し、鍛え抜かれた筋肉の力強さを見せつける。彼女のコーチである初老のアル(ピーター・ムラン)は以前自身もボディビルダーであった男だが、レアをかなり激しく追い込んでいる。目を疑うような、普通の世界でいえばパワハラ的なアルの振る舞いに対しても、レアは淡々と受け入れているのでそれが日常茶飯事なのだろう。

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そんなレアの前に元恋人のベン(アリエ・ワルトアルテ)が息子ジョセフ(ヴィダル・アルゾニ)を連れて現れる。この6歳の子どもはレアが産んだ子供だというのだ。この作品では過去がフラッシュバックで描かれることもなければ、台詞で語られることもなく、レアとベンになにがあったのかは想像するよりほかないのだが、どうやらレアは4年間息子に会っていなかったというのだ。何らかの理由があって母親であることよりアスリートであることを選んだ彼女は、今回も息子より選手権を優先しようとするが、ジョセフと向き合うことができるのか。

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最近では、筋肉は嘘をつかないという言葉があるが、本作の筋肉にも嘘がない。レア・パール役を演じるジュリア・フォリの筋肉は本物で、彼女は役者ではなくプロのボディビルダーなのだ。生理など女性アスリートの問題は本作でも少し触れられるが、実際のアスリートが演じているので、その苦悩や孤独は演技の域を超えている。肉体を極限まで磨き上げるボディビルダーの体は日常生活においては「女性的」というのとは対極にあり、本作では無垢な息子に超人ハルクと比較されることによってユーモアになっている。

本作のレアは外見だけでなく内面においてもなかなか映画でお目にかかることのないキャラクターで、ただのスポ根にはならない女性監督ならではの光の当て方が大変興味深い。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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