映画  DRÔLE DE DRAME 『おかしなドラマ』
11/05/202017:40 Yusuke Kenmotsu
奇妙な、奇妙な
 

1937年のマルセル・カルネ監督作品。彼は戦前から巨匠とみなされており、詩人のジャック・プレヴェールによる脚本で詩的リアリズムと呼ばれるフランス映画のグランド・エポックを築いた人物で、とりわけ『霧の波止場(1938)』や『天井桟敷の人々(1945)』は今日でも世界中で愛される古典的名作だ。彼は撮影助手として映画の世界に入り、そこで知り合った女優フランソワーズ・ロゼーの紹介で彼女の夫であるジャック・フェデー監督やルネ・クレール監督の助監督を務めることになる。『外人部隊(1933)』『ミモザ館(1934)』『女だけの都(1935)』などフランス映画史に残る名作を残してきたフェデー監督はマレーネ・ディートリッヒ主演の『鎧なき騎士(1937)』の準備や撮影のためにイギリスに行く必要があったため、同時期の企画である『ジェニイの家(1936)』の監督はそれまで助監督だったマルセル・カルネに任せることになる。フランソワーズ・ロゼー主演の『ジェニイの家』で長編監督デビューしたマルセル・カルネの2作目が本作『おかしなドラマ』である。

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ロンドンで司教のソーパー(ルイ・ジューヴェ)は巷で流行っている小説「犯罪モデル」を糾弾するために聴衆に語っていた。自由奔放で不道徳で下品な小説は人々を堕落させるし、なにより罪深いのはこの本の著者フェリクス・シャペルであると説くソーパーは会場にいる彼のいとこのアーウィン(ミシェル・シモン)に話してもらおうとする。アーウィンは植物の研究者であったが実はフェリクス・シャペルというペンネームで活動する小説家でもあり、糾弾されているその場ではなにも言うことができない。するとアーウィンの後ろに座っていた肉屋の男(ジャン=ルイ・バロー)が立ち上がり、「自分はこの本を読み、この本の通りの行動をとってしまった。作者を見つけて殺してやる」と叫んで去っていく。場は混乱したまま会は終わり、ソーパーはアーウィンの家でディナーをご馳走になる約束だったのでやってくる。招待されていたはずなのにアーウィンの妻マルガレット(フランソワーズ・ロゼー)が不在であるのを不審に思ったソーパーは食事をしながら「奇妙だ、奇妙だ」と繰り返す。このシーンは戦前のフランス映画の屈指の名シーンとさせる場面なので必見だ。
妻、マルガレットがそこにいなかったのは料理を作っていたからで、彼女が料理を作らなければいけなかったのは、本来の料理人たちが待遇の悪さを理由に突然辞めてしまったからであった。マルガレットは体面を保つために料理人たちの辞職を隠し、自分は旅行に行ったことにして、料理を作り取り繕おうとしていたのだ。これを奇妙に感じたソーパーはマルガレットが殺されたに違いないと警察まで呼んでしまう。見栄から始まった一つの嘘を成立させるために嘘を重ね、貧民街でホテル暮らしをする羽目になるドタバタ感が面白い。
 
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カルネ作品の後の名作群に比べ、肉屋の男の謎の殺人以外、基本的に殺人など起こらないのでコメディとして気楽に楽しめる作品だ。家に帰るとまずい状況でも植物学者アーウィンが手塩にかけて育てていて、付け髭を着用しシャペル氏に変装してまで様子を見に行きたくなる植物がミモザというのもカルネ監督の師ジャック・フェデー監督の代表作でフランソワーズ・ロゼー主演の『ミモザ館』への素敵な目配せだろう。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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