映画  MADEMOISELLE CHAMBON 『シャンボンの背中』
15/04/202013:44 Yusuke Kenmotsu
背中を見つめる男のまなざし
 

2009年のステファヌ・ブリゼ監督作品。彼はテレビや舞台の演出を経験した後、映画に進出する。長編2作目の『愛されるために、ここにいる(2005)』という上質な大人のラブストーリーが日本でも公開され、ミニシアターを中心にヒットを記録した。長編4作目の本作『シャンボンの背中』と『愛されるために、ここにいる』は不倫関係か未婚同士かという違いはあるが、どちらも大人の愛を描いていて対をなすような作品だ。本作で初めてブリゼ監督作品に出演したヴァンサン・ランドンはこの後『母の身終い(2012)』『ティエリー・トグルドーの憂鬱(2015)』『En Guerre(2018)』に主演し、ブリゼ作品になくてはならない存在となる。

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大工のジャン(ヴァンサン・ランドン)は妻アンヌ・マリー(オーレ・アッティカ)と息子ジェレミー(アルトゥール・ル・ウエル-)は3人で幸せに暮らしている。ある日ジャンがジェレミーを迎えに学校に行くと、パリから来た代理教師ヴェロニク・シャンボン(サンドリーヌ・キベルラン)と出会う。そこでジャンはヴェロニクから「父親の職業」というテーマで生徒たちに話してほしいと頼まれる。ジャンは快諾し、教室で父から続く大工の仕事について生徒たちに話す。子供たちも興味深そうに聞き、質問するなどして盛り上がって終わる。その後、ジャンが大工ということでヴェロニクから新居の窓のすきま風について相談される。ジャンは窓の具合を見に彼女の部屋へ行き、修理することにする。窓やすき間が象徴的に使われ、ヴェロニクにとってそれを埋めるジャンと急接近しキスしてしまうのは自然な流れだろう。しかしお互い想い合っているもののそれ以上は進まない。

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ヴェロニクが趣味でギターを弾いていると知り、演奏を頼むジャン。上手くないので弾けないと断る彼女に対しさらに頼み込んで弾いてもらう。恥ずかしがって背中を向けて演奏するヴェロニクとそれを見つめるジャン。これ以上近づいてはならぬという2人の関係性や決意も見えるシーンだ。それでも彼の想いを手紙で読んだヴェロニクはジャンの仕事場までやって来る。情熱的な愛に突入するかと思いきや、ジャンから発せられる言葉は、妻が第2子を妊娠したというものだった。事実を隠すことなく話すジャンの誠実さと不器用さ、そしてそれを、ほとんど表情を変えず聞き、それでも心の変化が読み取れるようなヴェロニクの姿が印象的だ。ヴェロニクは現在の学校から契約延長の話も持ち掛けられていたが、パリに帰る決意をする。
 
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ヴェロニクがパリに発つ前日、ちょうどジャンの父の誕生日会があり、ジャンはそこでヴェロニクにバイオリンの演奏を頼む。ここでは演奏するヴェロニク、それを見つめるジャン、その彼の視線の意味に気付く妻アンヌ・マリーという構図がエルガーの『愛の挨拶』という曲の選曲意図も含めてスリリングに展開される。無事誕生日会が終わり、ジャンがヴェロニクを家まで送る。ジャンは車内で家に入っていくヴェロニクの背中を見つめる。カメラがヴェロニクの背中から左にパンしてジャンの顔をアップで捉えると大粒の涙を流して泣いている。カメラがゆっくりもう一度右にパンすると家に入ったはずのヴェロニクが路上に立っている。これで初めて2人は愛し合い、ジャンは翌日全てを捨てて一緒に電車に乗る約束をする。

この作品は日本語タイトルの通り、ヴェロニクの背中がストーリーの重要なところで映されるようになっており、それを見つめるジャンの眼差しが印象的だ。大きな荷物を抱えて帰ってきた夫を何事もなかったように迎える妻の姿も、何とも言えぬ余韻を残すだろう。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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