映画  MAMAN A TORT 『ママは嘘つき』
28/11/201912:06 Yusuke Kenmotsu
倉庫の整理、ママの嘘
 
2016年のマルク・フィトゥシ監督作品。1999年から短編映画を作り始めた彼が初めて長編作品を監督するのは2007年の『La vie d’artiste』で、このときすでに『ママは嘘つき』の主演のエミリー・ドゥケンヌとコンビを組んでいる。また『コパカバーナ(2010)』という作品ではイザベル・ユペールとロリータ・シャマが母娘共演を果たし話題になった。

フィトゥシ監督作品で唯一、日本で劇場公開されたのが『間奏曲はパリで(2014)』だ。ノルマンディで夫と畜産業を営みながら平凡な生活をしている妻がある男と出会い、夫に内緒でパリを訪れひと時のアバンチュールを楽しむ物語で、イザベル・ユペールが妻役を軽快に演じていて印象的であった。
 
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本作『ママは嘘つき』は『コパカバーナ』がそうであったように母と娘の物語だ。14歳のアヌーク(ジャンヌ・ジェスタン)は学校のカリキュラムで1週間の職業体験をすることになっていた。本当はテレビ局に行きたかったがそれはかなわず、彼女の母シリエル(エミリー・ドゥケンヌ)の勤め先である保険会社でインターンすることになった。この映画は構成として職業体験に参加する月曜日から金曜日までの5日間の話である。
 
アヌークが行った部署ではあまりすることがないようで、彼女は倉庫の整理を言いつけられる。一生懸命やっているつもりが、使いづらくなったと言われ元に戻し、またやり直すというようなことをほぼ一日中やらされストレスを抱えている。初日が終わり、母と出口付近を歩いていると、移民系のナディア(サブリナ・ウアザニ)という女性が受付でなにかを訴えている。シリエルが話を聞くと、どうやら事故死した夫の保険に契約段階での不備が見つかり、お金が払われないということのようだ。シリエルはその保険の担当は自分ではないので、詳細を調べると言って連絡先を聞き、ナディアと別れる。

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翌日の火曜日からシリエルがナディアの保険の真実に向かって調査を進める物語になるのかと思いきや、彼女はあまりそこに情熱がないようで、ナディアの書いたメモを家に置いたまま出勤しようとして、娘に咎められるほどであった。むしろやる気なのはアヌークで契約について興味津々でシリエルに尋ねている。ナディアには2人の子供がいて保険が払われない場合のことを心配しているのだ。
 
そうはいってもアヌークの仕事は来る日も来る日も倉庫の整理である。あまり進歩のないアヌークに対して上司は、他の部署の倉庫を見て整理の参考にするよう助言する。言われるまま他の部署にやって来た彼女は死亡事故の保険についてのファイルが整理してある倉庫の中に入る。そこで彼女はナディアの件の資料を見つけ、その担当者の欄に母シリエルの名が記載されているのを発見し愕然とする。
 
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少女が単調な仕事を、不平をもらしながらこなしていくコメディのように始まり、同時期にインターンに来ていた男の子との恋(のようなもの)を経験しつつ、保険会社が隠ぺいしていた事件に立ち向かうという社会派映画風に変遷していくストーリーが興味深い。大人の世界のダークな面とその世界に自分の母も加担していると知った彼女の心情や態度の変化を主演のジャンヌ・ジェスタンは見事に演じ切っている。ここに出てくる会社の名前が平穏を意味する「セレニタ」というのも皮肉が効いている。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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