映画  UNE PART D'OMBRE 『影の部分』
08/10/201917:37 Yusuke Kenmotsu
日頃の行い
 
2017年のサミュエル・ティルマン監督作品。彼にとって本作は長編第1作目である。それ以前に短編を2本撮っており『Nuit blanche(2011)』という作品で、ベルギーのアカデミー賞といわれるマグリット賞の短編映画賞を受賞している。またプロデューサーとして数多くのドキュメンタリーを制作したり、マグリット賞の授賞式の演出をしたりと幅広く活躍している人物である。
 
Une_part_dombre_TV5MONDEApac_1.png

この映画の最初のアイデアは監督の経験が基になっている。それはティルマン監督がある日ジョギングをしていて、バス停でバスを待っている男を見た際に、背格好が自分と似ていると感じ、そこから膨らんだ妄想のような話だ。もしあのバスを待っている男が近くで殺人を犯していたなら、近くにいて背格好が似ている自分は容疑者となってしまうのではないか。そうなったときに潔白を証明することができるだろうかといったちょっとした思い付きが一本のサスペンス映画に昇華するという制作の過程が興味深い。
 
ダヴィッド(ファブリツィオ・ロンジョーネ)には愛妻ジュリー(ナターシャ・レニエ)と2人の子供がおり、幸せな生活を送っている。彼は家族や友人たちとバカンスに行き川遊びなどをして楽しんでいた。女性陣や子供たちは先に家に帰り男性陣だけ残ることになる。ダヴィッドは夕暮れ時に森の方へジョギングに向かうのだが、その際危うく黒い車にぶつかりそうになる。翌朝、ダヴィッドがぶつかりそうになった黒い車に乗っていた女性が死体で発見される。近くにいたということでダヴィッドは警察に事情聴取される。初めは友人たちの誰もダヴィッドを疑う者などおらず、気にもしていないようだ。しかし警察はダヴィッドを容疑者として本格的に身辺調査を始めると様子が変わってくる。

Une_part_dombre_TV5MONDEApac_2.jpg

Une_part_dombre_TV5MONDEApac_3.jpg

周りの人たちはまさかとそんなことはないと思い彼と普段どおり接しながらも少しずつ疑惑の目を向けていく。一番近くにいて最大の理解者である妻だが警察の捜査が進むにつれて態度が変わってくる。それは捜査によって夫が犯人である可能性が高まったからではない。夫が別の女性と浮気をしていた事実が明るみになったからだ。それまで彼を信頼し擁護していた彼女が思わぬ形で裏切られてしまい、ダヴィッドとの間に溝ができてしまう。そうなると仲間たちや特に女性たちは妻ジュリーに同情し彼女側に立つようになる。ダヴィッドの言うことをだれも信用しなくなってしまうのだ。窮地に立たされたダヴィッドは最後まで残ったくれた親友や弁護士と共に、無実の証明や真犯人の捜査請求を行うのだった。

Une_part_dombre_TV5MONDEApac_4.jpg
 
本作は清廉潔白な人間の冤罪事件というものではない。浮気もするし嘘もつくという叩けば埃の出るような人物が、身体的特徴や近くにいたというだけで拘束されてしまうところが不気味だ。観ている者も次第に彼が犯人なのかもしれないと思うし、彼の妻に同情もするだろう。この集団心理が冤罪事件の一つの要因ではないかと世に問うような作品だ。

その映画のような状況に自分が巻き込まれたらどうなるかなどと考えながら観るのも面白いだろう。人間日頃の行いが大切であると痛感させられる作品だ。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ