映画  ZAZIE DANS LE MÉTRO 『地下鉄のザジ』
08/05/201917:43 Yusuke Kenmotsu
地下鉄に乗りたい女の子
 
1960年のルイ・マル監督作品。彼はパリの映画学校、高等映画学院(IDHEC)を中退しジャック=イヴ・クストーの海洋記録映画『沈黙の世界(1956)』で共同監督としてデビューすると、この作品はアカデミー賞のドキュメンタリー映画賞を受賞する。そして長編劇映画第一作で世界中の映画界に新風を吹きこみ衝撃を与える。それが『死刑台のエレベーター(1957)』である。特別なライティング無しで撮影された夜間ロケーションシーンでのジャンヌ・モローの美しさは筆舌に尽くしがたく、マイルス・デイヴィスの即興演奏という画期的な音楽の使い方も効果を高めていた。

次の『恋人たち(1958)』では前作での巧みなモンタージュと打って変わって長回しを多用し、ジャンヌ・モロー演じる主人公の心理の変化をじっくり追った大人の恋愛映画であった。
 
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本作『地下鉄のザジ』はルイ・マル監督の長編3作目である。本作は彼にとって初のカラー作品というだけでなく、サイレント期のスラップスティック喜劇や前衛映画を意識した作りとなっており、前2作から大きく作風が変化している。

母に連れられて10歳の少女ザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)がパリにやって来る。駅には叔父であるガブリエル(フィリップ・ノワレ)が待っていて、ザジをガブリエルに預けた母は愛人とどこかに行ってしまう。タクシーに乗ってガブリエルの家に向かうザジたちだが、彼女は地下鉄に乗りたくてたまらない。強引にタクシーから降りたザジは地下鉄の駅へと向かうが、不運にもストライキ中で運行は停止していた。

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どうしても地下鉄に乗りたいザジは翌朝一人で駅に向かうが、ストは続いたままである。不思議な男ペドロ(ヴィットリオ・カプリオーリ)に声を掛けられた彼女は一緒にレストランへ。ザジが食べ終えたムール貝の殻を皿に投げる度にペドロの服にソースが飛び散るが少女はそんなことお構いなしだ。その後パッサージュでペドロがザジを追い掛け回すというサイレントコメディ風展開はガブリエルの家まで続き、ペドロがガブリエルの妻アルベルティーヌ(カルラ・マルリエ)に一目惚れしてしまうという無軌道ぶりだ。

ガブリエルに連れられてザジは蚤の市やエッフェル塔などパリ観光をする。エッフェル塔のらせん階段を降りる際の危うさは忘れがたく撮影方法も気になるところだ。外に出るとなぜかガブリエルがドイツ人女性たちに大モテして連れ去られてしまう。そして夜にはパーティーに行くザジ。そこでは大人たちが大暴動を起こしているのだけれど、その喧噪の中ザジは疲れて熟睡中。

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この映画はもはやストーリーとしては破綻寸前なのだが、コマ落としやスローモーション、ジャンプカットなど絶妙なテンポの編集や、天真爛漫なザジの存在感のおかげで時代を超越したドタバタコメディとなっている。ガブリエルに連れられて復旧した地下鉄に乗るものの、ザジはずっと寝入ったままであった。駅で再会した母に何をしていたか問われるのだが、その時のザジの驚くような答えにも注目だ。

映画化不可能と言われていたレイモン・クノーの実験的小説を映像や音声のテクニックを駆使して面白おかしくナンセンスに描き切った映画史に残るフレンチコメディである。
 
 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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