映画  MISÉRICORDE 『ミゼリコルド』
ひき逃げ犯を追う男
 
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2016年のフルビオ・ベルナスコーニ監督作品。スイス出身の彼の作品はドキュメンタリーやテレビ映画が多く、日本で紹介されることはほとんどないが例外的に映画祭で『リングの果てに(2007)』という作品が上映されたことがある。この作品はタイトルの通りボクシングの映画だが、貧しい主人公が経済的にも精神的にも姉に支えられながら懸命にチャンピオンを目指す物語。…かと思いきや、選手としてのピークを過ぎた主人公は誘われるまま闇ボクシングの世界に足を踏み入れる展開で、最愛の姉とも仲違いし、暗黒の世界で孤立を深めていく主人公の姿が印象的であった。
 
『ミゼリコルド』の舞台はカナダのケベックである。主人公のトーマ(ジョナサン・ザッカイ)は普段ジュネーブに住んでいるがこの3カ月ほどケベックで釣りなどをして過ごしていた。彼は帰国当日ある事件に遭遇してしまう。それは居留地に暮らす先住民の13歳のムッキという少年が自転車に乗っている際にひき逃げされて死んでしまうというものだった。直接の関係者でも目撃者でもなく事故後の現場を見ただけのトーマは、一旦空港に行ったもののフライトをキャンセルし町に戻っていく。ムッキの母に会いひき逃げの犯人を見つけるよう懇願された彼は、事件の捜査に関して門外漢でありながら現地警察とは別に独自で捜査を始めるのだった。
 
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現地の警察からすると突然現れたスイス人が勝手に捜査を始めて面白いはずがない。彼の身元を照会するとスイスで警官をしていると判明する。それだけではなくトーマ自身がある事件を起こしその裁判が間もなく行われるということも分かってくる。寡黙だが正義の人という印象であったトーマが次第に変化していくのが本作の興味深いところだ。それは悪魔のように真っ黒な車体で少年を轢き殺し去っていくトラックであっても自分の子供を愛してやまないシングルマザーが乗っていたり、虐げられた歴史を持ち無垢なイメージである先住民の被害者少年が飲酒だけでなく薬物まで摂取していたりと本作の登場人物たちは紋切り型のキャラクターでは終わらず皆多面性を持っており、それが物語としてサスペンスを醸成させている。

本作は歴史、差別、家族愛、罪、赦しなどさまざまなテーマを読み取ることができる作品でタイトルが「慈悲」というのも考えさせられるものがあるだろう。そういった中でエヴリーヌ・ブロシュ演じる婦人警官の存在が素晴らしい。コーエン兄弟の名作『ファーゴ(1996)』のフランシス・マクドーマンドさながら妊婦である彼女が事件解決に向けて奮闘する姿が心地よい印象を残す作品だ。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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