映画  LOLA PATER 『ローラ・ペーター』
02/04/201912:34 Yusuke Kenmotsu
ファニー・アルダンの存在感
 
2017年のナディール・モクネシュ監督作品。彼はアルジェリア移民の子でフランスとアルジェリアの二重国籍を持っている。生まれはパリだが3歳の時に父親を亡くし、母としばらくアルジェで暮らした後に再びパリに戻ってきている。彼の作品は『ビバ・アルジェリア(2004)』や『グッバイ・モロッコ(2012)』などアフリカを舞台にした作品が多く、自身の見聞きしたことが作品に反映されている。そういう意味では本作『ローラ・ペーター』も幼いころに父親を亡くして育った監督自身の体験が基になっていると見ていいだろう。

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物語はピアノの調律師で作曲活動もするジノ(テウフィク・ジャラブ)の母マルカの葬儀から始まる。母役のルブナ・アザバルはモクネシュ作品でこれまでヒロインを務めてきた女優で、本作では遺体としてだが美しい姿を見せている。突然死した母の遺産の手続きの際、公証人から母は正式には父と離婚しておらず、父は南仏で暮らしていると聞かされる。父ファリドは妻子を捨ててアルジェリアに帰ったと聞いていたジノは驚いたものの、父に会いにバイクで南仏に向かう。教えてもらった住所に着くとそこはダンス教室だった。そこで教師をしているローラ(ファニー・アルダン)はファリドの息子が来たと聞いて動揺する。ジノはローラのことを父の新しい妻と思い込み、連絡先が書かれた名刺を彼女に渡し、連絡するよう伝えてパリに帰っていく。

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しかしジノが父の妻と思い込んでいたローラが実は性転換した父ファリド本人であるというのが本作品の最大の肝だろう。今度はローラがパリに行き、もらった名刺の住所まで行き、職場を眺めたり、泊まっているホテルのピアノの調律を電話で頼んだりと次第に接近しながら、ある時正体を明かす。ジノは芸術家でトランスジェンダーを差別するような人物ではない。しかしいざ自分の父親が女性として現れると、当惑し、幼いころに家庭を捨てたことも含めて怒りさえ覚えている。一方どこかで父親を求めているようなところも見てとれ、その葛藤が巧く表現されている。
 
この作品の魅力はなんといってもローラを演じたファニー・アルダンの存在感だろう。元男性が全身に手術を施し女性になった難役だが、彼女の低い声やエレガントな長身のおかげで観る者を納得させるだろう。ピガール地区で育った監督が、昔仲良くしていた2人のトランスジェンダーから本作の構想が生まれ、母親に映画のことを相談したところ、ファニー・アルダンに頼みなさい、とアドバイスされたという。トリュフォー監督の『日曜日が待ち遠しい!(1983)』でレインコートを着て男性的なシルエットで歩き、エットーレ・スコラ監督の『ラ・ファミリア(1987)』でピアノを弾くといったファニー・アルダンのイメージが本作に活かされている。

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ジノがアパートで飼っている猫も本作では重要な役割を果たしている。ある時はテーブルの上のカップを蹴落としてしまい、またある時は窓から外に出てヘリを危なっかしく歩いている。この猫の身振りが人間関係や物語の展開を象徴しており興味深い。そしてなにより、この猫が可愛いので、猫映画という文脈で観ても楽しめる作品だ。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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