映画  Dieumerci ! 『デューメルシ!』
30/01/201900:00 Yusuke Kenmotsu
社会派なのよ

ルシアン・ジャン=バティスト監督の2016年の作品。彼はテレビや映画で幅広く活躍する俳優でアメリカ人俳優の吹き替えでドン・チードルやウィル・スミス、ジェイミー・フォックスの声を演じることもある。2009年の『一番星』からは監督業にも進出しており、その際には毎回自ら主役を演じている。本作『デューメルシ!』は長編3作目で、30歳を過ぎてから俳優を目指した彼の自伝的要素も含まれている。

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44歳のデューメルシ(ルシアン・ジャン=バティスト)は刑務所を出所後、幼少からの夢であった俳優になることを決心する。パリの演劇学校に通う必要があり、郊外で暮らす息子思いの心優しい母と離れて暮らさなければならなくなる。自宅のアパートのエレベーターの調子が悪く不平を言うデューメルシに対し、上昇は使えないが下降は使えることから、上りつめるのは困難だが転落するのは簡単という人生にたとえ「このエレベーターは社会派なのよ」といたずらっぽくユーモラスに答える母は息子が幾つになっても優しく見守っている。

パリでボロボロのホテルで暮らし始めたデューメルシは演劇学校へ向かう。説明を聞きに来たつもりが秘書(デルフィーヌ・テオドール)の勘違いや手違いもありすぐに演技のクラスに行くことになる。そこですぐに講師に実演を求められ、デューメルシは戸惑いながら舞台上へ。2人芝居の実技に相手役で選ばれたのは遅刻してきたクレモン(バティスト・カラプラン)だ。オーディションもこの22歳のクレモンとのコンビで受けることになったデューメルシだが、年齢も性格も全く異なる2人は気が合わずなかなかうまくいかない。

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そんな中デューメルシの才能を見抜いていた講師はオーディションの際に行う演目をシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にするよう勧める。あえて男同士でこの演目をやり、審査員を驚かせ注目を集める作戦のようだ。それだけではなく2人の息を合わせるために四六時中一緒にいることを提案する。それを素直に聞き入れた2人は同じ職場で働き、同じボロホテルで暮らすことによって次第に理解し合うようになり、友達のように、または兄弟のような関係になっていくのである。『ロミオとジュリエット』を2段ベッドの上下で和やかに練習する2人が、オーディション本番の緊張感の中どういったパフォーマンスを見せるかが、この作品の見どころだろう。

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コメディ要素いっぱいに描かれる本作は、誰でも何歳からでも夢を追うことができるというメッセージの裏に、多額の受講料などに悩む場面もあり、貧しい者が夢を持つ事の厳しい現状が見てとれる。またデューメルシの母が郊外のアパートに住み、ボロホテルを運営しているのがインド人であるという移民系の人たちの居住空間や、デューメルシが黄色いベストを着て建築現場で働いることなど、現実を切り取ったシーンは単なる娯楽映画の域を超えている。デューメルシの母のように「この映画(実は)社会派なのよ」と言いたくなる作品だ。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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