映画  LA DÉNONCIATION 『密告』
19/07/201815:42 Yusuke Kenmotsu
20年前のトラウマ
 
1962年のジャック・ドニオル=ヴァルクローズ監督作品。彼は批評家として1940年代からキャリアをスタートさせている。

1949年にはアンドレ・バザン、ジャン・コクトー、ロベール・ブレッソン、アレクサンドル・アストリュックとともに「オブジェクティフ」というシネクラブを設立する。彼らは同年ビアリッツの地で、伝説的な映画祭である第一回呪われた映画祭を開催した。若き参加者の中には国語教師のモーリス・シェレール(エリック・ロメールの本名)やフランソワ・トリュフォーがおり、彼らの出会いはこの地であった。

ドニオル=ヴァルクローズが映画監督に進出したのは1960年の『唇によだれ』からである。ある館で起こった失踪事件とその顛末を、回想を用いて描くサスペンスでありながら、館のそこここで垣間見える恋愛遊戯を長回しで瑞々しく表現した、これぞヌーヴェルヴァーグといった作品であった。このときのヒロインであるフランソワーズ・ブリヨンは『唇によだれ』の完成後に共演者であったポール・ゲールと離婚し、ドニオル=ヴァルクローズ監督と結婚している。ドニオル=ヴァルクローズ監督の第2作『胸ときめかせて(1962)』や第3作『密告』にはフランソワーズ・ブリヨンは妻として参加している。
 
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物語は1961年10月26日午後8時という字幕で始まる。ミシェル(モーリス・ロネ)はプレイボーイというナイトクラブにやってきた。真っ暗な部屋に入ると男女の人影が見える。ミシェルの足元にはなぜか横たわって動かない人がいる。男の方はナイフを出して近づいてくる。このとき刃の先に照明が当たって不気味に光っている。刃物の男から逃れようとミシェルは部屋の反対側へ移動すると、そちらからもう一人の男が近づいてきて、ミシェルの頭に勢いよく椅子を振りおろす。

その際に気絶したであろうミシェルの次の場面は、警察の取調室である。ミシェルは横たわって動かなった人物が有名な極右ジャーナリストであり彼は死んでいたと知らされる。現場で気絶していたミシェルは当然事件に関係があると考えられ、警察から事情聴取されるが重要なことには口を開こうとしない。刑事たちにミシェルが語るナイトクラブの場合は映像化され、ほとんど冒頭の場面と同じでありながら絶妙に影が差していたり角度が違ったりして人物を認識できないようにしている。これは記憶が曖昧になったためではなく、意図的に証言を曖昧にしていることからくる描写であることが後に分かってくる。

それは20年前の対独レジスタンス時代のミシェルの取り調べの場面である。フラッシュバックで挿入されるゲシュタポによる尋問や密告はミシェルにとってトラウマ的な出来事となっており、すべてを刑事に明かすことができないという葛藤をかかえている。
 
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映画製作者であるミシェルは真相に迫ろうと独自に動きはじめる。最初に目撃した女エレオノール(ニコル・ベルジェ)に近づくために、偽の映画出演を持ちかけカメラテストに誘うといった映画ネタを盛り込むあたりがヌーヴェルヴァーグ的だ。

普段から妻エルザ(フランソワーズ・ブリヨン)に事件のことを相談していたミシェルは、突然妻から「どう思う?」と問われ事件についての見解を話し始めるが、「違うわ、ドレスよ」と新調したドレスを見せるエルザのいたずらっぽさは、政治サスペンス映画である本作に心地よいユーモアの風を送り込んでいる。
 
本作はアルジェリア戦争のさなかに作られたということで、固有名詞こそ出てこないがOAS(秘密軍事組織)やFLN(アルジェリア民族解放戦線)を描いている。当時そういった作品はほとんどなく、本作とジャン=リュック・ゴダール監督の『小さな兵隊(1960)』ぐらいだ。1960年に作られながら結局公開は1963年まで待たなければならなくなった『小さな兵隊』やゴダールにエールを送るように、本作では台詞の中に「小さな兵隊」という言葉が出てくるがこれは決して偶然ではなく、ヌーヴェルヴァーグ的共闘関係からくるものだろう。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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