映画  MA VIE DE COURGETTE 『僕の名前はズッキーニ』
24/05/201823:00 Yusuke Kenmotsu
感涙必至のストップモーション・アニメーション
 
2016年のクロード・バラス監督作品。彼は本作で長編デビューを遂げるが、それ以前にもいくつかの短編作品を発表しており世界中の映画祭で数多くの賞を受賞している。特に『魔法のラビオリ缶(2006)』という7分ほどの短編は、ラビオリの缶を開けると中から妖精が現れて2つだけ願いを叶えてくれるという、千夜一夜物語の魔法のランプを思わせるようなユーモラスな物語で、クロード・バラス監督の名が国際的に知られるきっかけとなった作品だ。また『Au pays des téte(2009)』という作品では主人公が吸血鬼の少年で、顔のしわを嫌う母のために街に出て、人々の首を切り落として持ち帰り、母に合う顔を探すというブラックユーモアたっぷりのダークファンタジーを描いていた。

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短編作品で2Dや3Dのアニメーションも手掛けてきたバラス監督だが、『魔法のラビオリ缶』あたりからはずっとストップモーション・アニメーションの手法で製作している。これは人形を用い、スケッチに合わせてその人形を配置して、1コマごとに人形をわずかに動かすことで動きを表現する手法である。絵で描くことの自由度を考えれば、この手法の不自由さは想像に難くないだろう。登場するそれぞれのキャラクターの人形を作成して、撮影の際はそれを背景となるフレームの中で少しずつ動かしていく。気の遠くなるような作業で、撮影期間もどうしても長くなってしまうのだが、技術の革新によって従来のクレイアニメからすればかなり負担は軽減されたようだ。本作での人形においてクレイ(粘土)は型取りに使う程度で、頭部は3Dプリンタを用いて作られている。それによって質感は粘土のような味わいがありながら軽量化し、頭部が空洞であることから眼球を中から簡単に動かすことができ、キャラクターたちの豊かな表情を生み出している。
 
9歳の少年イカールは飲んだくれの母の事故死に罪悪感を抱えていた。一人ぼっちになった彼を心優しい警察官レイモンがフォンテーヌ園という施設に連れていく。そこは親がアルコールやドラッグ中毒、育児放棄や虐待、犯罪や移民問題などの深刻な問題を抱えた、心に傷を負った子供たちのための孤児院だ。叱られてばかりだったけれど母親がつけてくれた愛称の「ズッキーニ」を大切に思っていたイカールは、フォンテーヌ園ではズッキーニと呼んでもらうようみんなにお願いする。

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フォンテーヌ園にはリーダー格のシモンをはじめとする5人のクラスメイトがいた。最初シモンはズッキーニに意地悪をして洗礼を与えていたが、ズッキーニが園長に「ママのところに帰りたい」と訴えるのを、ドアの外で立ち聞きして、心の痛みを共有するようになり親密になっていく。そして新しい入園者カミーユがやってくる。カミーユに初恋をしたズッキーニであったが、両親を亡くしたカミーユを扶養手当目的で引き取ろうとする叔母が園に乗り込んでくる。
仲間たちと知恵を絞りカミーユを脱出させる場面はこの映画のハイライトといえるだろう。
 
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ストップモーション・アニメで有名なのはアメリカのティム・バートン監督だ。『ティム・バートンのコープスプライド(2005)』や『フランケンウィニー(2012)』などティム・バートン印のファンタジー・ホラーともいうべき現実とかけ離れた世界のであった。それに対して本作『僕の名前はズッキーニ』は同じような形式のアニメーションでありながら、親や大人たちの問題があまりに現実の世界に接近していて、観ていて辛くなるほどだ。しかし大人向けに書かれた原作を子供にも観てもらえるように、際どい表現や描写は控えめにして、ユーモアで優しく覆いこんでいる。そこには普段劇映画を監督しているセリーヌ・シアマ(『トムボーイ』など)の脚本協力の功績は大きく、誰もが観られる愛と友情の物語になっている。
この作品の公式ホームページで観ることができるズッキーニのオーディションシーンは、トリュフォー監督の『大人は判ってくれない(1959)』の際のジャン=ピエール・レオーのオーディション風景をアレンジしているので、映画ファンにはうれしいおまけとなるだろう。
 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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