映画  LE SPÉCIALISTE 『スペシャリスト』
04/04/201800:00 Yusuke Kenmotsu
ジョニー・アリデイによる孤高のガンマン
 
1969年のセルジオ・コルブッチ監督作品。イタリア、ローマ生まれのコルブッチ監督は40年以上のキャリアの中で80本以上の作品を手掛けているが、代表作というと『続・荒野の用心棒(1966)』やメキシコ革命3部作と呼ばれる『豹/ジャガー(1968)』『ガンマン大連合(1970)』『進撃0号作戦(1973)』などといった、いわゆるマカロニ・ウエスタン作品になるだろう。

そもそもマカロニ・ウエスタンとは米国製の本来の西部劇とは異なり、イタリアなどヨーロッパで作られた西部劇のことで、ニセモノの西部劇という蔑みの意味も込めて欧米ではスパゲッティ・ウエスタン、日本ではマカロニ・ウエスタンと呼ばれてきた。そのマカロニの原点は日本の黒澤明監督の『用心棒(1960)』を大胆にも無許可で翻案した『荒野の用心棒(1964)』とされている。イタリア人のセルジオ・レオーネ監督が主演にクリント・イーストウッドを迎えて作った『荒野の用心棒』は、当時アメリカでは倫理規定により描くことのできなかった暴力的で残虐な描写を盛り込み、世界的に大ヒット。西部劇の新機軸を打ち出すこととなったマカロニ・ウエスタンなどヨーロッパ製西部劇はその後約10年で400本以上作られることになり、一大ムーブメントとなった。
 
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セルジオ・レオーネの存在ゆえにしばしば「もう一人のセルジオ」と呼ばれることもある『プロフェッショナル』のセルジオ・コルブッチだが、レオーネ作品が徐々に荘厳なオペラのような様式美をまとっていったのに対し、コルブッチはいつまでも血まみれで、果てしなく残虐で、それでいてめっぽう面白い。

コルブッチ作品では主人公のインパクトが強烈で観る者にどれも忘れがたい印象を残すだろう。例えば『続・荒野の用心棒』のオープニングではフランコ・ネロが演じた主人公ジャンゴは、薄汚れたコートを身にまとい棺桶を引きずりながら荒野を歩いている。また『殺しが静かにやって来る(1968)』でジャン=ルイ・トランティニャンが演じたシレンツィオ(サイレンス)は言葉を話すことができないという一風変わった主人公であった。

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本作『プロフェッショナル』で主人公ハッドを演じたのは当時フランスを代表するポップ歌手であるジョニー・アリデイ。黒を基調としたモダンなシャツに銃弾をも跳ね返す鎖帷子を合わせるという出で立ちで新しいガンマン像を見せている。『殺しが静かにやって来る』に続いてフレンチアルプスでロケが敢行された本作は、出演者は皆フランス語を話すが、舞台はメキシコに近いアメリカ南部ということのようだ。

銀行強盗の嫌疑をかけられリンチの末殺された兄の復讐のため、ハッドは町に帰ってきた。町の者たちはリンチに加担した者もいたようでハッドの帰郷を快く思っていない。治安維持のためにハッドは保安官(ガストーネ・モスキン)に銃を預けなければならないという厳戒態勢だ。そんな不穏な雰囲気の中ハッドに近づいてくるのは銀行家の未亡人バージニア(フランソワーズ・ファビアン)だけだった。しかし次第にこの女と消えた10万ドルと殺された兄チャーリーの関係が明らかになっていく。

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マカロニ・ウエスタンも本作のように後期になるとド派手なガンアクションがメインではなくなり、ミステリのような趣も加味されている。破れた紙幣が山の形になっていてお宝の地図になっているという趣向は非常に面白い。ヒッピー風の若者が登場するのも当時の世相をあらわしていて興味深い。

そうはいっても一つの画面に幾人もの死体が折り重なり、住人たちは身ぐるみ剥がされ地に伏せているという地獄の光景はまさにコルブッチ的。そして右肩を撃たれ、すでに弾の切れた銃を左手で構える孤高のガンマンハッドは最高にかっこいい。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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