映画  ABUS DE FAIBLESSE 『忍び寄る罠』
26/04/201800:00 Yusuke Kenmotsu
カモが葱背負ってくる
 
2013年のカトリーヌ・ブレイヤ監督作品。彼女は17歳の時に初めて書いた小説が過激な性描写を多く含んでいたために、18歳未満購買禁止とされてしまう。その後、イタリアでポルノ裁判にかけられたことでも有名なベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』に出演したり、自らの小説の映画化作品を監督したりと活躍の幅を広げていった。

長編監督デビュー作は『本当に若い娘(1976)』という作品だ。14歳の少女の性の目覚めや欲望を描いており、少女の性描写などによりポルノ映画とされ、本国でもブレイヤ監督の約20年後の新作『ロマンスX(1998)』の頃にようやく一般公開されることになるという曰くつきのデビューを果たす。以降、女性のセクシャリティをテーマに様々な角度から赤裸々にタブーを打ち破ってきた。

毎回物議を呼ぶせいか、『FOUR NIGHTS 4夜(2004)』ではオープニングで「この作品はフィクションです。女優の性描写には代役を使っています。女優本人の体ではありません」といった文言の字幕が映し出される。
また、彼女はセクハラ問題でハリウッドを揺るがしたハーヴェイ・ワインスタインを擁護するような発言をしたことで『最後の愛人(2007)』で主演だったアーシア・アルジェントから、撮影当時から独裁的なサディストだったと痛烈に批判されている。
 
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カトリーヌ・ブレイヤ監督の最新作である『忍び寄る罠』は監督自身の体験をもとに作られている。というのも彼女は2004年に脳出血で倒れ、5か月に及ぶ入院、苦痛を伴う理学療法を受けながらリハビリをして復帰を目指していた時期があったからだ。女性監督が突然病に倒れ、それでも映画を撮ろうと奮闘するという話だけでも興味深いが、本作ではそこに詐欺師が加わってくる。これも実際にあったことを基にしているのだが、映画としてもこの詐欺師のおかげで物語がどう転がっていくのか予測不可能で興味が尽きない。
 
冒頭、真っ白のシーツ、真っ白な布団に包まり全裸で眠っているのは映画監督モード(イザベル・ユペール)だ。体の異変を自覚した彼女はなんとか自分で救急車を呼ぶが、家族が呼び集められるほどの重篤な症状であった。一命はとりとめたものの左手には麻痺が残り、歩行もたどたどしい。
そんな彼女を励ます目的もあったのだろう、プロデューサーは新作の企画を持ってくる。ある夜自宅でぼんやりと新作のことを考えているモードの目に飛び込んできたのは、テレビの中で自分の犯罪歴を雄弁に語るヴィルコ(クール・シェン)という男だった。すぐさまプロデューサーに電話し、テレビを点けさせ、この男を呼ぶように伝える。
粗野で危険な香りのするヴィルコに役者として、そして男性としての魅力を感じたモードは頻繁に会うようになり映画の企画の話をする。本作自体にはさほど激しい性描写も暴力描写もないのだけれど、ここでモードによって語られる新作映画のプロットはいつものブレイヤ映画の激しさだ。

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ヴィルコはモードが書いていた小説を共同で出版しようと言い出す。費用を小切手で払っていたのだが、この男はプロの詐欺師なので次第に事業の話などを持ち掛けてくる。モードはいつものように小切手を切っていたら、ある時大変なことになってしまっていた。
破産を迫られたモードに対して向けられた家族たちの目は、病院で危篤状態であった時に向けられたものとは全く違うものになっていて印象的だ。
 
この映画ではイザベル・ユペールが麻痺の残る身体の演技を見事にこなしている。手に荷物を持つというのが難しいので買い物をしたものはリュックに背負っているのだが、そのリュックからは長ネギが飛び出している。もちろん日本語特有の表現なのだけれど、詐欺師からすると正にカモが葱背負ってくる状態である。
自分の身体と心が弱りきっているときの出来事を自分の手で映画化することで、ブレイヤ監督は過去と決別し、新しい一歩を踏み出したのだろう。これからの作品がどういったものになるのか楽しみにしたい。
 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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