映画  FLIC OU VOYOU 『警部』
19/01/201817:33 Yusuke Kenmotsu
2つの名前を持つ男
 
1979年のジョルジュ・ロートネル監督作品。彼は撮影助手や録音技師、編集などで経験を積んでから1958年に監督デビューを果たす。『黒眼鏡の男(1961)』がヒットし、片眼鏡がトレードマークのキャラクターでスパイ映画をシリーズ化させる。これ以降痛快アクション路線に活路を見出し、ヒット作を連発する。アラン・ドロンと組めば静かな殺し屋、ジャン=ポール・ベルモンドと組めば陽気なお調子者と、役者の個性を活かした幅広い作品で快作を残した職人監督である。

本作のヒロインはマリー・ラフォレ。『太陽がいっぱい(1960)』で鮮烈なデビューを果たした彼女が本作では、大人の美しさを備えた女流作家を演じている。

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開巻目に飛び込んでくるのは、モーテルのベッドで横たわる男女の死体だ。そして怪しげな男たちが入ってきて死体を持ち出し、車で丘の方まで行き死体に銃弾を撃ち込んで去っていく。謎の隠蔽工作から始まるオープニングは雰囲気たっぷりで快調だ。それに続いて「ベルトラン警部、射殺死体で発見」という見出しが躍る。

そして登場するのがジャン=ポール・ベルモンド扮するアントニオ・セルッティ、またの名をスタニスラス・ボロウィッツだ。白いクラシックなオープンカーで夜のシャンゼリゼ通りを疾走している。彼が野宿しようと停車した所、チンピラ3人組に絡まれ靴やジャケットを奪われそうになる。しかし返す刀でチンピラをパンツ一丁にして追い返す彼の快活さで観る者は心をガッチリ掴まれるだろう。翌朝ベルトラン警部の邸宅に向かうのだが、気に食わない門番には鉄拳をお見舞いし、車ごと窓から邸宅に入っていく破天荒ぶりだ。
 
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カナダで刑務所暮らしをしていたとうそぶくアントニオ・セルッティ。彼のもう一つの顔は警察官の不正を監査するスタニスラス・ボロウィッツ警部であった。闇の組織にセルッティとして潜入し、腐敗警官たちの実態を探っていく。正体を隠しているため、警察官に捕まってしまうこともあるけれど、そこはご愛敬。体を張った型破りな捜査の途中で出会った美しき女流作家エドモンド(マリー・ラフォレ)に対しても全力投球だ。

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そんなボロウィッツの唯一の弱点は娘シャルロット(ジュリー・イゼケル)の存在だ。学費を出してやりイギリス留学をしていたはずのシャルロットがすぐに帰国してきたので理由を問うと「パパに会いたかったの」などと言われニヤニヤして何も言えなくなってしまう親バカぶりだ。ボロウィッツとエドモンドの会食にシャルロットが加わった際の、父を取られまいとするシャルロットの小さな抵抗が愛らしい。
 
最愛の娘を人質に取られ、逮捕した闇の組織のボスとの交換も上司に反対されるという危機一髪のボロウィッツだけれど、最後は当然悪徳警官たちに倍返し以上の制裁を与えて大団円を迎えるだろう。

フィリップ・サルドによるジャズ風サウンドに乗せて、2つの名を持つ男をベルモンドが軽妙な魅力と痛快なアクションで魅せる本作のような娯楽映画やその専門的な作り手であるジョルジュ・ロートネル監督は、批評家から軽んじられがちだが、彼ほど痛快な映画を撮る監督も珍しく、再評価が待たれる職人監督である。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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