映画  LA MINUTE DE VÉRITÉ 『愛情の瞬間』
03/12/201702:26 Yusuke Kenmotsu
結婚10年目の大騒動
 
1952年のジャン・ドラノワ監督作品。1908年生まれの彼は、俳優としてキャリアをスタートさせた後に映画監督へと転身する。ジャン・ドラノワの名が広く知られるようになるのは、ジャン・コクトーが書いた脚本を映画化した『悲恋(1943)』からだろう。トリスタンとイゾルデの物語を現代に置き換えたこの作品はジャン・マレーの美しさもあり大ヒットした。

また自分が育てた孤児の娘への愛情に苦悩する牧師の姿を描く『田園交響楽(1946)』は第1回のカンヌ映画祭でグランプリを獲得するなど、ジャン・ドラノワは当時のフランス映画の中心人物と言っても過言ではないだろう。

そんなフランス映画界に地殻変動が起こったのはヌーヴェルヴァーグの登場によってである。特にフランソワ・トリュフォーは「フランス映画のある種の傾向」というエッセイにおいてジャン・ドラノワや彼とよく仕事をしていたジャン・オーランシュ、ピエール・ボストを徹底的にこきおろした。またトリュフォーは自分が監督になってからは自作短編『あこがれ(1958)』において登場人物である悪ガキ少年たちに、ジャン・ドラノワ監督の『首輪のない犬(1955)』のポスターを破かせることで宣戦布告を表明した。その甲斐あってかフランス映画界はドラノワたちの時代からトリュフォーたちのヌーヴェルヴァーグの時代へと変わっていくのである。
 
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『愛情の瞬間』の冒頭はのどかな日常から始まる。医師をしているピエール(ジャン・ギャバン)は朝の出勤前に身支度をしながら、娘シモーヌ(マリー=フランス)の勉強を手伝っている。「1415年は?」と父が問うと娘が「アジャンクールの戦い」と答える。歴史の年号と出来事を復習しているこの光景はとても微笑ましい。娘は学校へ向かい、ピエールも出勤のために寝室にいる舞台女優である妻マドレーヌ(ミシェル・モルガン)に別れを告げにいく。すると妻から今日の日付を聞かれ、訝しそうに答えるピエール。彼はそのまま仕事に出かけるが、どうやらその日は彼らの結婚10年の記念日であり、彼はすっかり忘れてしまっていた。

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ピエールは仕事を終え、帰宅しようとしたところで急患が出たと呼ばれる。壁には風変わりな画が飾られ、絵の具や画材が乱雑に散らかった部屋に着くと自殺未遂をして昏睡状態になった青年ダニエル(ダニエル・ジェラン)がいた。ピエールは机の上に置かれている写真を目にして釘付けになる。その写真には、目の前で横たわるダニエルと自分の妻マドレーヌが睦まじげに写っていたからである。

そんなことは予想もしていない妻はピエールが帰宅すると、事前に自らレコードに録音していたお祝いのメッセージに口を合わせて、意気揚々と結婚10周年のプレゼントを渡す。
憮然とした態度の夫はお返しにとダニエルの部屋にあった写真をそっと投げ渡す。
そこから夫婦の話し合いになり、夫婦の馴れ初めや、ダニエルとの出会い、夫婦関係などがフラッシュバック形式で現在の時制と交互に描かれていく。

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この手の語りの方の弱点は大オチともいうべきもの(本作ではダニエルの自殺)が最初に提示されているということで、後半の驚きが半減するという恐れがあるが、本作では、3人の素晴らしい演技や、少しずつ見えてくる真実(原題は『真実の瞬間』)など全く見飽きることなく楽しむことができる。冒頭の父と娘ののどかな年号当てクイズも、結婚記念日や写真に書かれた日付などが重要な本作においては、気の利いた伏線なのは明らかである。トリュフォーが毛嫌いしたドラノワ監督たちによる「脚本家の映画」というものを今こそ見直すべきではなかろうか。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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