映画  MARGUERITE DE LA NUIT 『夜のマルグリット』
24/11/201722:49 Yusuke Kenmotsu
悪魔との契約
 
1955年のクロード・オータン=ララ監督作品。1901年生まれの彼はゴーモン社の美術担当などを経て1923年に短編作品『Faits divers』でデビューする。サイレント期のこの時代に長編撮り始めるのだが、彼は1930年からの一時期ハリウッドに渡ることになる。それは自身の映画を撮影するのではなく、当時チャップリンと人気を二分するほどの偉大なコメディアンであったバスター・キートンの映画のフランス版を作るために呼ばれたようだ。

オータン=ララ監督は1940年代から50年代にかけてレイモン・ラディゲ原作の『肉体の悪魔(1947)』、コレット原作の『青い麦(1954)』、スタンダール原作の『赤と黒(1954)』等文芸作品を見事に映画化し、傑出した存在となっていた。

この格調高き良質なフランス映画の伝統は、ヌーヴェルヴァーグの台頭によって現代の映画ファンからは忘れられがちだが、本作『夜のマルグリット』はヌーヴェルヴァーグ前夜の、最もフランス映画らしいフランス映画を体験できるだろう。
 
Marguerite_de_la_nuit_1.png

冒頭からネオンが煌く夜のパリの街並みを、ルネ・クロエレックの音楽にのせて雰囲気たっぷりにパリ以上にパリ的に描いている。ヌーヴェルヴァーグの若者たちがカメラを戸外に持ち出し、ありのままのむきだしのパリを生々しく描いていたのとは違い、花の都のイメージ通りに作りこまれたセットデザインが上質な味わいを醸し出している。本作でのパリ以上にパリ的というイメージの最大の功労者はセットデザインを担当したマックス・ドゥーイという人物だろう。モノクロ作品を多く手掛けてきたベテランだが、カラー作品においてもジャン・ルノワール監督『フレンチ・カンカン(1955)』など映画史に残るようなセット美術でパリを作ってきた。

老医師ファウスト(パロー)はナイトクラブで出会った歌手マルグリットにすっかり惚れてしまう。そのナイトクラブにいたエレガントなレオンという男(イヴ・モンタン)から変わった話を持ち掛けられる。それはある契約を交わすと若返ることができるというものだった。もちろん初めは信じていなかったファウストも、レオンの不思議な魅力や彼の持っている消えないマッチなどを目の当たりにし、マルグリットへの想いもあって契約することになる。夜、ベッドで眠るファウストを捉えていたカメラがゆっくりと部屋を旋回しているうちに外が明るくなり、彼の足から徐々に体の方へ行くとファウストが若返っている。若返ったファウスト(ジャン=フランソワ・カルヴェ)はいそいそとマルグリットに会いに行くが昨日まで老人だった人物がいきなり青年になったと言っても信じるはずもない。そこでファウストが口にするのは、前日マルグリットに出会って思わず漏らした「夜のマルグリット」という言葉だ。本作のタイトルにもなっているこの言葉が合言葉になってファウストの言うことを信用するようになり、次第に2人は親密になっていく。
 
Marguerite_de_la_nuit_2.png

本作は数あるゲーテの『ファウスト』の関連作品である。その中でもグノーのオペラ版と深い関わりを見てとれる。1930年代が舞台の映画の中で、ファウスト医師は『ファウスト』を初演からすべて観ていると言っているが、これは1859年初演のグノーの『ファウスト』である。

悪魔レオンを怪しげな紳士風に演じたイヴ・モンタンが出色だ。そして彼がいるナイトクラブへの入り口の禍々しい赤い階段は地獄への入り口を示しているようである。それとは反対に最後の駅のシーン白を基調とした画面は天国を思わせる幸福感があり、画面設計の巧さに唸らされるだろう。

フランス映画で『ファウスト』関連といえば、ルネ・クレール監督の『悪魔の美しさ(1949)』が有名で盟友ミシェル・シモンとジェラール・フィリップの闘いが最高に面白い1本なので『夜のマルグリット』と合わせて観るとより楽しめるだろう。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ