映画  LA DUNE 『デューヌ~砂丘』
22/07/201700:46 Yusuke Kenmotsu
チェスをする男
 
2014年のヨッシ・アヴィラム監督作品。彼はエルサレムにあるサム・スピーゲル映画学校を卒業し、監督や脚本、撮影で活躍している。短編やドキュメンタリーの監督作品はいくつかあるが長編の劇映画としては、本作『デューヌ~砂丘』が第1作目。ドキュメンタリー作品で彼が採りあげたテーマ、例えばチェスや同性愛を本作でも描いており、監督の興味の程度がうかがえるだろう。

キャストではイスラエル映画界で大活躍しているリリオール・アシュケナズィなど素晴らしい役者が出演しているが、フランス映画ファンにとっての見どころはなんと言ってもニエル・アレストリュプだろう。フランス映画だけに留まらず、スティーブン・スピルバーグ監督の『戦火の馬(2011)』や離婚前のアンジェリーナ・ジョリーがアンジェリーナ・ジョリー・ピット名義で監督した『白いドレスの女(2015)』でも安定した存在感を見せている。本作『デューヌ~砂丘』で、カメオ出演的に数分間だけ登場するマチュー・アマルリックと対峙するシーンの緊張感は尋常ではない。

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イスラエルで自転車屋を営む男ハノッフ(リリオール・アシュケナズィ)は妻から妊娠したと聞かされるが、喜ぶどころか困惑してしまう。口数の少ないこの男がなぜそういった態度になったのかこの時点ではよく分からない。妻への愛情が薄くなっていたのか、父になる事への不安感か判然とはしないが、そんな夫に妻は愛想をつかして出て行ってしまう。

ちょうどその頃フランスから失踪課の刑事ルバン(ニエル・アレストリュプ)がイスラエルにやって来ていた。彼は夫人から捜索願が出されていた作家のモロー(マチュー・アマルリック)の居場所を突き止め、滞在先であるホテルを訪れる。しかしちょっとした隙にモローは窓から飛び降り、自殺してしまう。これに責任を感じたルバンはフランスに戻り、早期退職を申し出る。正式に受理される前に、浜辺で身元不明の男性が発見され、上司に促されたルバンは病院に面会に行くことになるのだった。

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浜辺で見つかった男は身元不明で、言葉も話さない。だからこの映画の登場人物は彼が誰だかさっぱり分からない。しかし映画を観ている我々にとって、彼は冒頭から出てくる自転車屋のハノッフであることは一目瞭然である。登場人物たちがハノッフに抱く「彼は何者か」とは違い、観客は「彼はなぜここにいるのか」ということに興味を持つだろう。この差が最後に絶妙なサスペンスをもたらすことになるのだ。

ハノッフは病院の医者にも何も話さない代わりに医者とチェスだけはするようだ。チェスといえばルバンだ、と言われるほどの腕前の彼が面会に行くのは至極当たり前のようだけれど、こういったことが次第に人物たちの関係性を明らかにするきっかけになるという仕掛けになっていて感心する。

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海辺、何も話さなくてチェスだけする、というイメージは、チェスをピアノに置き換えるとジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン(1993)』を想起させ、映画的記憶を刺激する。本作はかなり台詞の少ない作品だが、フランソワ・トリュフォー監督が『華氏451(1966)』の撮影の際に書いていた日記の中の、沈黙と台詞の割合を参考にしているようだ。そしてトリュフォー好きのアヴィラム監督はトリュフォー作品『ピアニストを撃て(1960)』のようにジャンルに囚われない作品を目指したと語っている。確かにサスペンス風な出で立ちでありながら、不思議なところに着地する本作はジャンル分け自体ナンセンスなのかもしれない。

アヴィラム監督にとって長編第1作ということで、ドキュメンタリーで取材した自分の興味のあることや、映画愛を詰め込んだ作品となっている。ここである程度吐き出した後、彼がどのような作品を撮っていくのか楽しみにしたい監督である。
 

LA DUNE 『デューヌ~砂丘』
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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