映画  COMMENT J'AI TUE MON PERE『父を殺した理由』
28/03/201714:59 Yusuke Kenmotsu

裏・ドライ・クリーニングという奇妙な愛の形

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2001年のアンヌ・フォンテーヌ監督作品。ルクセンブルク出身で女優としてキャリアをスタートさせた彼女が映画監督として注目を集めるようになったのは、実弟のジャン=クレティアン・シベルタン=ブランを主演に迎えた『おとぼけオーギュスタン(1995)』からだろう。俳優志望のオーギュスタンが活躍するこの作品は後に2本の続編が作られる人気シリーズとなった。そして初期の代表作『ドライ・クリーニング(1997)』で国際的な地位を確立することになる。平凡な夫婦のところにやってきた美少年は妻を誘惑するだけでなく、夫のほうにも近づいていくという官能ドラマは衝撃的であった。

奇妙な愛の形というのはアンヌ・フォンテーヌ作品の一つの特徴である。『恍惚(2003)』では妻が娼婦に夫との浮気を依頼しておきながら激しく嫉妬する。『美しい絵の崩壊(2013)』では大親友の2人の女性がお互いの息子とそれぞれ禁断の恋に落ちてしまう。近作『ボヴァリー夫人とパン屋(2014)』では隣に越してきた若妻がボヴァリーという名であったため、読書好きのパン屋の主人はフローベールの「ボヴァリー夫人」と混同してしまい小説のような運命を辿らないか本気になって心配している。パン屋を演じたファブリス・ルキーニは『キャスター 裸のマドンナ(2008)』でも若く奔放なお天気キャスターに骨抜きにされる堅物弁護士役でフォンテーヌ作品に参加している。

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『父を殺した理由』では冒頭、主人公のジャン=リュック(シャルル・ベルラン)が家で手紙を読んでいる。その手紙は父の死を告げるものだった。アンチエイジングの医師として町の名士となったジャン=リュック。その父も医師であったがジャン=リュックが小さい時に家庭を放棄し、アフリカの貧しい国で医療の仕事をするという真面目な放蕩親父であった。

その後ジャン=リュックの活躍を祝うパーティーにひょろひょろと現れた老人モーリス(ミシェル・ブーケ)はジャン=リュックの父親であると名乗り、ジャン=リュックと対面する。映画を観慣れた人なら、大きなきっかけもなくどこかのカットが変わった瞬間から過去にフラッシュバックしたと感じるかもしれない。あるいは、そもそも届いた手紙が何かの間違いであり、現在の時制で普通に父が現れたと思うかもしれない。少なくともタイトルの「殺す」などというキャッチーな言葉は、この映画に限ってはある種の比喩的な表現であり、あまりに長い不在や忘却について描く物語で、実際の殺人とは無縁であると直感するだろう。

しかしそのどれもが正しいとも間違っているとも言えないような曖昧さをはらんだまま物語は進んでいく。
さすがに殺人までは起きまいと高を括っていると、終盤にはジャン=リュックがモーリスの首を絞めるシーンがあり、驚かされる。その後2人で話す場面に繋がるので、虚と実、現在と過去が混然一体となった映画の迷宮に迷い込んだような感覚に襲われる。

冒頭の手紙のシーンの続きの場面で幕を閉じるラスト、この映画には様々な解釈の仕方がありそこが最大の魅力でありながら、アンヌ・フォンテーヌ作品には珍しく日本未公開というのも、その曖昧さが無関係ではないだろう。
 
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本作のジャン=リュックは助手と不倫関係にあるが、アンヌ・フォンテーヌ的な奇妙な愛の関係性という面で注目すべきは、ジャン=リュックの妻イサ(ナターシャ・レニエ)とモーリスの関係だろう。もちろん肉体的な関係ではなく精神的な親密さだ。始めは久々に再会した父子が関係を深めているようであったが、モーリスと2人でいるときのイサの輝くような美しさは、久々にジャン=リュックとベッドを共にするときの気怠そうな彼女(腕時計まではめている)とは対照的だ。本作は急な闖入者が夫婦の間に入り、夫婦の関係を壊しながら両者と親密になるという、監督の出世作『ドライ・クリーニング』の裏バージョンと言いたくなるような作品でもある。

『ココ・アヴァン・シャネル(2009)』のような手堅い伝記映画でも評価され、作曲家ラヴェルの伝記映画の制作が発表されたアンヌ・フォンテーヌ監督だが、『父を殺した理由』のような奇妙な愛の物語をどんどん撮ってほしいものである。
 


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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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