映画  LES SOUVENIRS 『愛しき人生のつくりかた』
06/09/201615:04 Yusuke Kenmotsu

パリもノルマンディー地方も両方味わえるフランス映画
 
 
2014年のジャン=ポール・ルーヴ監督作品。フランスでは100万人を動員し大ヒットとなった本作は、彼の監督作品としては長編3本目。俳優として20年以上のキャリアを持つ彼は、これまでの監督作品同様に『愛しき人生のつくりかた』でも出演しているが、前2作では主演であったのに対し、本作では控えめでありながら味のある助演といった感じでいぶし銀の存在感を放っている。

本作は3世代の家族の絆を描いており、その一番上の世代である祖母のマドレーヌ役を演じたアニー・コルディが素晴らしい。意志が強く愛情に満ちていてキュートなおばあちゃんがいてこそ本作は成立すると言っても過言はないだろう。

その下の世代である両親はミシェル・ブランとシャンタル・ロビーという演技巧者が、息子ロマン役の若手俳優マチュー・スピノジを支えている。



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物語はお墓での葬儀のシーンから始まる。マドレーヌ(アニー・コルディ)の長年連れ添った夫の葬儀なので皆一様に神妙な面持ちで、暗い雰囲気の映画になりそうだけれどバックで流れる軽快な音楽と、お墓を間違えたと言って葬儀が終わったころに走ってやってくる孫ロマン(マチュー・スピノジ)の登場でパッと明るくなる。

ロマンはホテルの夜勤フロントを始めるが、このホテルの主人を演じるのが本作の監督であるジャン=ポール・ルーヴである。そしてホテルの名前はアルシナホテル。フランソワ・トリュフォー監督の『夜霧の恋人たち(1968)』で主人公アントワーヌが軍を脱走した後、働き始めるホテルと同じ名前で、場所も同じところに設定したようだ。ロマンはアントワーヌのようにすぐにクビになってしまうという事はないが、主人公に同じ場所で同じ仕事をさせるところにトリュフォーへの敬愛の念が感じられる。『愛しき人生の作り方』の劇中歌であるシャルル・トレネ作曲の「残されし恋には」も『夜霧の恋人たち』で頻繁に流れる曲であるし、本作で登場するモンパルナス墓地はトリュフォーが眠る場所であるので、トリュフォーファンはついにやにやしてしまうだろう。
 
一人暮らしになってしまうマドレーヌの事を心配してロマンの父ミシェル(ミシェル・ブラン)は、マドレーヌを老人ホームに入居させる。しかし彼女は突然姿を消してしまい、祖母ととても仲良しだったロマンがマドレーヌを探す旅に出るというのが本作の柱となるストーリーだろう。マドレーヌから届いた絵ハガキをもとに彼女が生まれ故郷に帰っていると推測し、車を走らせるロマン。パリの街並みから、高速道路、そしてノルマンディー地方のエトルタへと「残されし恋には」のメロディにのって、美しい海岸の空撮へとたたみかけるように移り変わる景色のモンタージュは映画ならではの爽快感だ。



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マドレーヌは昔通っていた小学校を訪ねる。思い出の地を巡る旅でありながら、疎開するために卒業できなかったという彼女の言葉には、戦争の爪痕も垣間見える。
 
郵便局を定年退職したミシェルは新しい人生のスタートを楽しみにしていた矢先に、唐突に妻から別れを切り出される。妻からすれば長年我慢してきた事がたまりにたまって爆発したのだろう。熟年離婚の危機である。

若いロマンは運命の女性との出会いを心待ちにしている。その世代その世代、その人その人の悲喜こもごもが描かれているので観る人によって楽しみ方が変わってくるだろう。



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お墓での葬儀のシーンで始まった本作は、お墓での葬儀のシーンで幕を閉じる。人生において誰も避けることのできない「死」を描いているのだけれど、冒頭のロマンと全く同じようにある人物が遅刻して走ってやってくるので湿っぽくならず、むしろ爽やかな印象のエンディングとなっている。

オープニングとエンディングのように2つの類似したシーンというのが本作では数多く見られる。高速のドライブインにいる、チョコに詳しく人生訓を教示してくれる店員との会話や、出会った時と正確に同じ言葉で妻の心を引き寄せるミシェルなど、それぞれ2つのペアとなる場面があり、そのことで調和がとれて観る者に安心感を与えている。ほかにもまだある、対となるシーンを見つけることでルーヴ監督の作劇の巧さも堪能できるだろう。

 
LES SOUVENIRS 『愛しき人生のつくりかた』

再放送:9月8日(木)夜10時
 



1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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