映画  TERRE BATTUE 『フォーティー・ラブ』
28/06/201616:12 Yusuke Kenmotsu


一握りではあるが一つまみではないテニスプレーヤー
 
 
2014年のステファン・ドゥムスティエ監督作品。ヴェネチア国際映画祭批評家週間部門に出品されているが、本作が長編デビュー作で日本未公開なので、ドゥムスティエ監督の知名度は日本ではとても低いだろう。しかしプロデューサーとして、現在のフランス映画界の恐るべき才能ギヨーム・ブラック監督の『遭難者(2009)』や『女っ気なし(2011)』に参加しており、もっと初期の作品には出演もしている。
 


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本作は題名から分かる通りテニスを描いている。11歳の少年テニスプレーヤーの物語なのだけれど、努力の末に難敵に打ち勝つといったスポ根ストーリーを想像していると、観ていて落ち込んでしまうようなシビアなストーリーとなっている。これにはドゥムスティエ監督の経歴が関係しているようだ。一般的に映画監督の長編第一作目というのは、その監督のすべてが詰め込まれているとよく言われる。本作のドゥムスティエ監督も例外ではない。彼は少年時代テニスをやっており、地区大会のチャンピオンになり全国大会のセミファイナリストになった経験がある。そして彼は11歳の少年テニスの全国大会についての短編ドキュメンタリーまで撮るほどテニスに熱心なのだ。

真剣にテニスをしていたからこそ描ける敗者や夢破れた者、不正を働いてしまった者など普段は光の当たらない部分にスポットライトを当て、スポーツの厳しい面を浮き彫りにしている。だからといってすべてが自伝的というわけではなく、実際に起こった事件(少年テニスプレーヤーの父が相手選手の飲料に強力な睡眠薬を入れ、結果的に殺してしまった事件)からも大きな影響を受けている。



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主人公の少年ユーゴ役には子役俳優ではなく、セミプロ少年350人程の中からのシャルル・メリエンヌを選んでいるので実際のテニスのシーンも問題なしだ。そして父親役をオリヴィエ・グルメ、母親役をヴァレリア・ブルーニ・テデスキという演技巧者が演技未経験の少年を支えるという盤石の体制である。特にオリヴィエ・グルメは会社を辞めて、多少強引に企業する中年男性を演じていて、いつものことながら素晴らしい。彼の仕事の場面や息子との絆(というほどの甘美さはないのだけれど)が描かれることで、平面的なスポーツ映画になることを回避し、多面的でより深みのある作品となっている。

この映画のファーストカットは彼が会社を辞めるところから始まる。2階のオフィスから出て、仲間たちと別れの挨拶や握手を交わし、階段で1階まで降りて、外の駐車場へ行くまでずっとカメラが付いていく。手持ちカメラとオリヴィエ・グルメの相性の良さはベルギーのダルデンヌ兄弟監督作で実証済みで、何かの始まりを期待させるオープニングである。



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出番は少ないながらヴァレリア・ブルーニ・テデスキの存在感や美しさ、静かに悩みを抱える姿などもとても印象深い。仕事一直線の夫は彼女から別れを告げられて、突然だと驚くが、日常の会話や態度で心が離れていくシグナルを小出しにする彼女の演技は絶品だ。
 
父親が反則ギリギリの方法でビジネスを始め失敗するのと同じように、息子もテニスにおいて失敗してしまう。父が息子を庇おうとつく嘘を愛と呼ぶべきかどうか難しい。

息子は憧れているフェデラーのモデルのシャツを着て試合をしていた。スポーツの才能を持つ者はほんの一握りで、恐らくこの主人公は才能を持つものだったのだろう。しかしフェデラーのような真の成功者となるのは、ほんの一握りの中のほんの一つまみのプレーヤーだけなのだ。元テニスプレーヤー監督による想像以上に骨太なテニス映画であった。
 
 

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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