映画  LA FÉE 『ザ・フェアリー』
17/06/201617:43 Yusuke Kenmotsu

アベル&ゴードンにようフェアリーテイル
 
 
2011年の作品で、監督にはドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、ブルーノ・ロミの3人がクレジットされている。このトリオによる長編映画は3作目で、1、2作目の『アイスバーグ!(2005)』『ルンバ!(2008)』は共に日本で劇場公開されているが、本作『ザ・フェアリー』は未公開である。アベル&ゴードンは私生活でも夫婦であり、毎回主演も務めている。現役の道化師である彼らは、ほとんどセリフに頼ることなく、その独特の身体表現で物語を紡ぎシュールな笑いをもたらす作風が印象的だ。
 


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『アイスバーグ!』と『ルンバ!』では劇中でも夫婦役であったアベル&ゴードンだが、本作では設定が少々異なる。題名のとおり妖精が出てくるのが本作の特徴だ。映画畑の人間ではない彼らが映画を撮り始めるにあたって、映画界にほとんどつてが無く、資金集めや公開の手はずなどの苦労は想像に難くない。ベルギーで映画製作を始めた彼らは、小さな映画祭で話題になりフランスの映画会社MK2の目に留まる。MK2がフランスでの劇場公開の手助けや作品の共同出資者となり、ある程度余裕ができたことで「妖精」というファンタジー調の新作へのチャレンジができたのだろう。

冒頭、ホテルで夜勤の仕事をしているドム(ドミニク・アベル)は出勤のために、雨の中自転車を漕いでいる。チェーンが外れてしまい、それを直して走り出し、また外れてしまう。するとドムは自転車を担いで自分の足で走っていく。ドムがフレームアウトするとカットが変わり、自転車を担いだ彼がホテルに到着するところなのだけれど、明るかったはずの辺りは真っ暗になっている。カットを変えるだけで自転車を担いだドムが数時間走っていたことを想像させる気の利いたギャグである。



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働いているドムの前に、フィオナ(フィオナ・ゴードン)と名乗る女性が現れる。彼女は荷物を持つどころか靴すら履いていない。彼女は自分が妖精であり、ドムの3つの願いを叶えると言う。突然の申し出に驚いたドムがバイクと一生分のガソリンをお願いしてみると、翌朝ホテルの中にバイクが置いてあり、フィオナから鍵を手渡される。それはガスタンクの鍵で、巨大なガスタンクから直に給油するためのものであった。一生分というのがガスタンクになったのであろうが、夜中忍び込んで巨大なガスタンクから小さなバイクに給油する姿がユーモラスだ。

アベル&ゴードンの作品の笑いの画面作りの特徴は、フリの部分ではしっかり人物を映し、オチとなるような瞬間には人物に接近することなくスッとカメラを引いて全体を映すのだ。絶妙なテンポと全体を俯瞰的に映した画がシュールな笑いを生み出すのだ。



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自称妖精のフィオナは突然妊娠して、風船が膨らむようにおなかが大きくなって出産したり、フィオナやドムは崖から落下しても平気だったりと、奇想天外な場面が度々出てくるのだが、この映画にリアリティを求めるべきではない。フィオナなど真面目に考えてしまうと、服も靴もガソリンも盗む犯罪者となってしまう。メルヘン的な純度が少々薄いおとぎ話の一形態と考えるべきだろう。そしてこのおとぎ話には映画的記憶が数多く散りばめられている。ドムからペットの犬の持ち込みを断られた英国人が、犬をバッグに隠して持ち込もうとすると、床に置いたバッグがズズズッと動くシーンはチャップリンを、海底でドムとフィオナが不可思議なダンスを踊るところはジョルジュ・メリエスを、なにが起こってもさほど表情を変えないところはバスター・キートンを、等々セリフが少ないこともありサイレント映画を想起させる場面が多い。また独特の飄々としたユーモアはジャック・タチ、道化師たちの喜劇という事でピエール・エテックスなどのフランス映画を思い出す人もいるだろう。

本作の舞台はル・アーヴルで湾岸の工業地域の見た目も魅力的なのだけれど、イギリスを目指す3人の移民男性も出てきて今日的なトピックも取り入れている。アベル&ゴードンの場合、過去の映画遺産からの引用やオマージュが、単なる観客への目配せに終わらない底知れぬ可能性を感じさせてくれる。仮に先人たちの存在が無かったとしても、全く違った新しいものを生み出してしまいそうな彼らは注目必至の映画人である。
 

LA FÉE 『ザ・フェアリー』
再放送時間は
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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