映画  LA LOI DU MARCHÉ 『市場の法則』
24/05/201615:16 Yusuke Kenmotsu

監視はつらいよ
 
2015年のステファヌ・ブリゼ監督作品。彼の作品は日本では『愛されるために、ここにいる(2005)』と『母の身終い(2012)』が劇場公開されており、未公開ながら『シャンボンの背中(2009)』もWOWOWでTV放送されている。

主演は名優ヴァンサン・ランドン。難民を手助けする心優しい男から、悪漢相手に拳銃をブッ放す元刑事までどんな役柄にも説得力を持たせる稀有な俳優だ。彼は『市場の法則』の演技でカンヌ映画祭やセザール賞の男優賞を獲得している。本作『市場の法則』は『シャンボンの背中』『母の身終い』に続く、ブリゼ監督とヴァンサン・ランドンのコンビ3作品目である。前作では安楽死や自殺幇助といった問題を描いたブリゼ監督が、今回とり上げたテーマは失業や中年の再雇用など労働についての問題だ。
 


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機械工として長年働いてきたティエリー(ヴァンサン・ランドン)は会社から解雇されてしまっていた。職業安定所に通ったり、再就職のためのセミナーに通ったりするが51歳という年齢もあり、なかなか職が見つからない。しかし家には妻と障がいを持つ息子がいるので養っていかなくてはならず、職安からはあと少しでローンの返済が終わりそうな住まいを売ることを勧められる。

面接も今や直接会うのではなく、スカイプが用いられており、パソコンで行われる時代だ。モニターの向こう側にいる面接官に早々と可能性は低いと宣告されてしまう。再就職セミナーの模擬面接では、自分より若い人たちから散々ダメ出しを受ける。



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そしてなんとか苦労して見つけたのがスーパーマーケットの警備の仕事だ。直接売り場を歩いたり、いくつもある監視カメラを駆使したりして、万引きなどに目を光らせている。犯罪行為を発見したら別室に連行し、上司と一緒に追及するのが彼の仕事である。

彼の監視の目は客だけでなく、スーパーの従業員にまで及ぶ。割引チケットを回収せずに自分のポケットに入れたり、客の購入したポイントを自分のカードに付けたりといった、レジ係の不正を暴き詰問する。人件費の削減のために、余剰な人員を見つけ出す目的で会社の経営陣に言われたことではあるのだけれど、ティエリーの監視によって大きな悲劇が起きてしまう。



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市井の労働者階級の人々に焦点を当てた映画という意味では、イギリスのケン・ローチ監督の作品のような題材なのだけれど、ケン・ローチ作品に見られる、苦しい中にも奮闘する若き力やちょっとした希望というものが、本作ではほとんど見られない。心休まる瞬間といえば、妻とダンスを踊るシーンや息子を介護するシーンなど、ティエリーが夫や父の顔を見せるわずかな時間だけで、この映画全体がティエリーの心象のように、暗く陰鬱な雰囲気に覆われている。

このように陰鬱で希望もケレン味もなく、現実をありのまま切り取ったドキュメンタリーのような印象を持つのは、撮影方法によるものが大きいだろう。普段ブリゼ監督作品でカメラを回しているアントワーヌ・エベルレではなく、本作ではエリック・デュモンという人物が撮影を担当している。いつもとは違うルックを監督が求めての事だろう。面接や家の売却、万引き犯への追及などのシーンの多くが、手持ちカメラでの長回しで撮影されている。詰問される人物の困惑した表情や、会話の途中の気まずい間をそのままブレ気味のカメラが追うことで、見ていて居心地が悪く思うほどリアルな映像になっている。

出演者に関していえば、ヴァンサン・ランドン以外はほとんどプロの役者はいないはずなのだけれど、みんなそれらしく見える。それもそのはずで、職業安定所の人もレジ係も警備員もそれぞれの配役が、実際にその仕事をしている人たちだというのだ。プロの役者はいなくてもその道のプロばかりなのでリアルで説得力があるのだ。その中に入るヴァンサン・ランドンの演技は、役者の大熱演といったものではなく、その道のプロたちと同じような佇まいで、失業者や警備員になっているので驚かされる。

なお本作は2016年の夏に『ティエリー・トグルドーの憂鬱』というタイトルで劇場公開が決定したようだ。

 



LA LOI DU MARCHÉ 『市場の法則』
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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