映画  LES INVITÉS DE MON PÈRE 『パパの招待客』
27/04/201613:02 Yusuke Kenmotsu


現代版招かれざる客
 
2010年のアンヌ・ル・ニ監督作品。彼女の本業は女優で映画やテレビドラマで活躍している。監督作品は4作あり、本作は2作目である。

タイトルの通り、本作は父親が連れてきた珍妙な客のために周りの人間が手を焼く物語だ。ここで思い出すのは1967年スタンリー・クレイマー監督による米国映画の名作『招かれざる客』だろう。こちらは娘(キャサリン・ホートン)が結婚したいと言って連れてきた客が黒人(シドニー・ポワチエ)であったことから、父親に反対されてしまうという話。人種差別反対を掲げる新聞社の社長で本来リベラルなはずの父でも、心の底には差別意識があるということを描いている。公民権運動の広がりやマルコムⅩ、キング牧師の暗殺などがあった60年代に製作されていて大変挑戦的な映画でもあった。この映画では招かれざる客と対面することになる両親役を、スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘップバーンという映画史上でも有数のコンビが演じていて、素晴らしい演技を見せている。
 


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『パパの招待客』では、元医師で移民支援のボランティアをしている父親ルシアン(ミシェル・オーモン)が、移民の母子を家に連れて来るところから物語は動き出す。アフリカから大家族が来るのかと思っていた子供たち(とは言っても父が80歳なので子供もいい歳なのだけれど)はモルドバから来た若い女性タチアナ(ヴェロニカ・ノヴァク)に驚き、さらに父から滞在のために婚姻届けを出したと偽装結婚について聞かされ愕然とする。『招かれざる客』におけるトレイシーとヘップバーンの役回りは、本作では兄アルノーと妹バベットを演じるファブリス・ルキーニとカリン・ヴィアールが担っている。演技巧者2人による絶妙な掛け合いはこの映画の見所の1つだろう。


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『招かれざる客』での客は善良な黒人のイメージの強いシドニー・ポワチエであったので、観る者は困難があっても物語の最後には彼は救われると確信するだろう。一方、本作の客であるタチアナは、気に入らないことがあれば汚い言葉で罵り、禁煙の場所でも平気で喫煙するような、決して善良とは言えない人物だ。ルシアンは遺産をすべてタチアナに遺すと言い出すようになり、その後倒れて病院に運ばれてしまう。どうやらタチアナに任せていたバイアグラの量が適量ではなかったためなのだが、ここまでくると遺産目当ての殺人未遂も考えられる、黒に近い灰色の人物像である。しかし映画では描かれていない彼女の過去(不在の元夫との関係や移民に至る経緯)や、暮らしてきた文化の違い、移民としてルシアンと暮らすために性的要求を拒むことができないというタチアナの話、娘に良い教育を受けさせたいという親心などを考えると単なる悪人でもなく、灰色のまま、映画も宙づりのまま終わってしまう。
 
移民に対して強硬な発言や姿勢を示してきたサルコジ政権時代には移民がテーマの作品が数多く作られたが、本作もその1つ。監督のアンヌ・ル・ニは2011年には、体が不自由な富豪と、その介護人になる移民の黒人男性との交流を描いた『最強のふたり』に出演していて、彼女の移民に対する関心の高さをうかがい知ることができる。そんな彼女が『パパの招待客』ではほんの少しだけ出演もしているので、探してみるのも面白いだろう。
 
再放送:
4月29日(金)23:00
 
 

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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