映画  L'EMMERDEUR 『殺し屋とセールスマン』
07/01/201614:02 Yusuke Kenmotsu

殺しと自殺と友情と
 
 
1973年のエドゥアール・モリナロ監督作品。この監督は、デビュー当時は『殺られる(1959)』や『彼奴を殺せ(1959)』といった犯罪映画を数多く作っており、フランス映画ではかなり早い段階で映画音楽にジャズを採り入れた人である。また『Mr.レディ Mr.マダム(1978)』や続編『Mr.レディ Mr.マダム2(1980)』等コメディでもヒット作を持つ職人監督だ。

 
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そんなモリナロ監督が手がけた本作『殺し屋とセールスマン』は日本ではテレビ放送された程度で、劇場公開されていない。原作は『奇人たちの晩餐会(1998)』監督として有名なフランシス・ヴェベールが舞台用に書いたもので、後にヴェベール自身が2008年に映画化している。1981年には米国でもリメイクされていて『バディ バディ 新・おかしな二人』として『お熱いのがお好き(1959)』や『アパートの鍵貸します(1960)』の巨匠ビリー・ワイルダーが遺作としてメガホンを取っている。

本作で殺し屋ミランを演じるのは、数々のギャング映画に出演する屈強な強面役者リノ・ヴァンチュラ。これほどぴったりな人は他にいないだろう。そしてセールスマンのピニョン役はベルギー出身のシャンソン歌手ジャック・ブレルが演じている。ちなみにワイルダー版では殺し屋がウォルター・マッソー、セールスマンをジャック・レモンが演じている。『恋人よ帰れ!わが胸に(1966)』や『フロント・ページ(1974)』の監督・キャストの最強トリオのはずが、緊迫感も笑いの要素も『殺し屋とセールスマン』に遠く及ばないのは、さすがのワイルダーも巨匠老いたりといったところだろうか。
 
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殺し屋ミラン(ヴァンチュラ)は裁判に出廷する予定のランドニという男を消すために、裁判所の向かいのホテルの5階を借りて、そこからターゲットを狙撃するつもりだ。一方妻に出ていかれた哀れなセールスマンのピニョン(ブレル)もホテルにやってくる。妻に電話し5分でいいから会いたいと懇願するが無視され、絶望のあまり自殺を決意する。隣り合う2つの部屋で一方は人を殺そうとしていて、もう一方は自殺しようとしているという状況だけでもブラックなユーモアに満ちている。ピニョンが首を吊るために縄をかけていた水道管が破裂することでこのブラックなユーモアは一気に加速する。自殺は失敗し、辺りは水浸し、やってきたホテルのボーイは警察を呼ぼうとしているが、ミランはそれを制止する。彼には慰めが必要だと言ってボーイを追い返すミラン。もちろんこれから殺しを行うのに、警察沙汰の騒ぎを避けたかっただけなのだけれど、ピニョンの話を聞いてやり、妻の居所を電話で聞きだし、車で送ってやるのだから、ピニョンからすれば親切な隣人であり命の恩人なのだ。

午後2時にターゲットが裁判所に来る予定なので、ミランは急いでピニョンを妻の元へ送り届けようとするのだが、別の車と接触事故を起こしてしまう。相手の車には妊婦とその夫がいて、今にも生まれそうなので病院へ送ってくれと頼まれてしまう。たまたま通りかかった白バイに先導され病院まで妊婦を運ぶミラン。車の中に殺し屋と自殺志願者と妊婦がいるという、まさに生と死が隣り合わせを地でいくような状況だ。
 
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舞台用の脚本が原作という事で、ホテルの隣り合った2つの部屋の限定された空間や小物の活かし方が絶妙だ。飛び降り死ぬと言い出したピニョンがホテルの窓から外に出て、レッジで騒いでいる。ミランの部屋の窓からちょうど見える位置にピニョンがいて、足を滑らせたピニョンを間一髪で助けるのだ。このホテルの空間設計が、緊迫した場面もギャグも手助けしている。冒頭から壊れかけていた窓のブラインドが今しかないというタイミングでミランの頭に落下してきて倒れてしまう。そこにやってきた医師はピニョンの妻の浮気相手で、ミランが自殺志願者だと勘違いしてしまい……。

本来なら軽妙なドタバタコメディになりそうな展開がリノ・ヴァンチュラの重厚な存在感で深みが増し、なんとも味わい深い作品となっている。殺し屋に無二の信頼と友情を抱いたピニョンが「(ホテルでは隣だったけど)今度は同じ部屋(監房)になるように頼んでおいたよ」という台詞で幕を下ろす本作は、なぜか南の国に逃亡するワイルダー版のラストよりずっと洒落ている。
 
 

L'EMMERDEUR 『殺し屋とセールスマン』
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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