映画  アミアン国際映画祭 (5)
21/12/201509:21 Yusuke Kenmotsu


ドライブ、そして映画祭最終上映
 


 
金曜日に表彰式があり、映画祭最終日の土曜日はおまけみたいなもので、ほとんどが受賞作の上映に当てられています。最後の20時の回だけは観たい作品があったので、それまでは時間があり、少し遠出をしようと思いました。

とはいったもののアミアン駅からの鉄道がどこにつながっているのかよく分かっておらず、明確な行き先も決めていなかったので、車を借りてドライブをすることにしました。海外での初めての運転、左ハンドル、右側通行、そもそもペーパードライバーである…と不安要素はいっぱいでしたが、せっかく免許も持っていたので、大聖堂の近くの土曜日もやっている数少ないレンタカー屋さんの、数少ないオートマ車を借りて旅に出ました。
 
本当はモン・サン=ミシェルまで行きたかったのですが、頭の中で想定していたより遠く、スマホのナビの計算では4時間近くかかると出てきました。午前10時前に出発して、閉店が午後6時の店に返すにはあまりに遠すぎて諦めました。次の日が日曜で定休ということで、下手をすると月曜日まで借りる羽目になってしまいそうなので、もう少し近くて、しばしば映画にも登場するル・アーヴルのあたりに行くことに決めました。
ちょっと町を出るとすぐに、そしてずっと田園風景が広がっていて、車もあまり走っていないので、北海道を運転しているような心地よさでした。窓から草を食む牛や馬が見えるのも印象的です。

雨が降ったり止んだりと不安定な天候だったので、ル・アーヴルは車の中からチラッと見て、エトルタの方へ向かいました。クールベやモネが絵に描いたというエトルタの断崖ですが、想像以上に風が強い。強すぎるぐらいに風が強いです。海には年に1度行くか行かないかの私は、これが浜風かと強引に納得し、立つのもやっとの風を全身にあびながら、歩き回っていました。浜から丘に上がる階段があり、高いところから切り立った崖が見渡せるということで、少し上がってみました。手すりもないような崖で、人生でも経験したことのないほどの強風の中、帰り道をナビゲートしてくれる唯一の存在であるスマホが飛ばされそうになり、ちょっとした危機を感じたので、そそくさと車に乗り込み、アミアンの方へ向けて走り出しました。そのころには充電用の予備のバッテリーが尽きていて、スマホもWi-Fiのルーターも充電が半分を切っている状態で、少しばかりドキドキしながらの帰り道でした。



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ぽつぽつと雨は降っていたものの、運転は慣れてきていて、道路にはかなり早くからアミアンという表示が見えたので、難なくアミアンの町まで帰ってくることができました。レンタカー屋さんは、土曜日は12時から16時まで長い昼休みのようだったので、少し時間をつぶしてから、お店に向かいました。途中でガソリンを満タンにしようと思っても、その時間に開いているお店がなかなか見つけられず、なかば諦め気味でレンタカー屋さんへ近づいていきました。そうこうしているうちに17時を過ぎ、あたりは暗くなり、雨は激しくなってきました。閉店まで1時間を切ったので、もうお店に急ごうとナビを見ると、左折と出てくるのですが、そこには進入禁止の看板が路上に置かれています。仕方がないので直進するとナビには次の角を左折するように出てきます。しかし次の角も進入禁止の看板があり、さらに直進しても左はまた進入禁止。するとナビは右折を促すので、言われたとおり右折、さらに右折、右折、直進、左へ、…いや左は進入禁止、つぎも進入禁止、その次も、そして右折、右折、と冷静になれば同じところをくるくると回っているのは分かるのだけれど、あたりは真っ暗、ほとんどの道が一方通行で、激しい渋滞の中、3周ほどして30分も費やしてしまいました。目的地までは数百メートルなのに近づけず、Wi-Fiの電池は終わり、スマホの電池もあと数パーセント。カフカ的不条理な世界に投げ出されたようで急に不安になり、なりふり構わず通行人やスーパーの店員に道を尋ねてみるも、結局よく分かりません。スマホのバッテリーも無くなって万事休すという状態の時、車は駅前を走っていたので、一旦ホテルに帰ることにしました。そして部屋でスマホの充電をしながら、フロントの女性にレンタカー屋さんへの道を教えてもらいに行きました。観光用の略地図を渡され、このあたりだから簡単簡単とペンで印を付けてくれましたが、陽気なおねえさんからは一方通行や進入禁止の情報を得ることはできませんでした。それでも、部屋では少しだけスマホの、フロントではおねえさんから少しだけ元気の充電をできたので、もう一度レンタカー屋さんを目指してハンドルを握りました。恥ずかしながらもう一周無限ループに突入した後、右折などせず2回ほどナビを無視して直進すると新しい道が開けて、なんとかレンタカー屋さんに着き、車を返すことができました。レンタカーを返すというミッションは地味ですが、タイムリミット系のサスペンス映画や『トラック野郎』シリーズでの文太兄いのラストのトラック爆走シーンのようでした。

陽気なフロントのおねえさんには、お礼に小さなお菓子を持っていき、そこでやっと、一方通行や進入禁止の難しさを分かってもらえました。
部屋に帰って、冷静になって考え直すと、昼間の風はやはり強すぎではなかろうかと思い、エトルタのその日の天候を調べると、風速30メートル、突風だと50メートルで夜も警報が出ているみたいでした。浜辺に人っ子一人いなかったのはそのせいだったのですね。旅先の天候はあらかじめ調べておく必要があるということを激しく学びました。
 
そしてやっと映画へ。今年の映画祭の最終上映はジョン・ランディス監督の『狼男アメリカン』です。この作品も観たことはあったのですが、誰もが楽しめる娯楽ホラー映画です。オープニングで「ブルー・ムーン」が流れ、イギリスの片田舎にやって来た2人のアメリカ人がパブに入るまでは芸術映画のような美しさで、素晴らしい特殊メイクの狼男が暴れ、車が激しくクラッシュする後半とのギャップが痛快です。狼男の孤独も描かれているので、人によっては泣ける映画ということになるかもしれません。
この上映も満席となり、大団円のうちに映画祭は終了しました。気鋭の映画作家たちの新作が観られるコンペティション部門や、過去の映画人にオマージュを捧げた回顧上映など様々な企画があり、一部しか観ることはできていませんが、アミアン国際映画祭は魅力あふれる映画祭でした。
 
『狼男アメリカン』を観た後ということもあり、空を見上げるとさっきまで降っていた雨は止み、月が顔を出していました。もちろん誰も変身などしませんが、通りにはこの町に来た数日前にはなかったクリスマスのイルミネーションがキラキラと光っています。そして道路の真ん中には屋台が設置され、小さなメリーゴーランドも置かれています。もうそんな時期なのだなぁと、この映画祭やこの町との別れをしんみりと考えながら、なんとなく進入禁止地獄を作り上げた犯人の目星は付いたものの、これなら仕方あるまい、と素敵な夜景を前にして寛容でいられるアミアン最後の夜。
 
 

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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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